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会長声明集
2011年(平成23年)12月27日
「生活保護制度に関する国と地方の協議」の中間とりまとめに対してより一層の慎重な検討を要請する会長声明
日本司法書士会連合会
会長 細 田 長 司
時代が目覚ましく変転し、生活保護受給者が200万人を超える現在、生活保護制度自体が様々な課題に直面している。国と地方自治体が、喫緊の課題に対する具体的対策を協議し、12月12日、生活保護改革案の「中間とりまとめ」が公表された。
「中間とりまとめ」では、医療扶助の適正化や子どもの貧困連鎖の解消に向けた取り組みなどの検討を要する項目の他に、本年10月にスタートした求職者支 援制度との関係にも言及し、月額10万円の給付金と無料の職業訓練をセットにした求職者支援制度に関して、「合理的理由なく受講しない者に対し指導指示の対象とし、必要に応じて保護の停廃止も検討」することが、運用改善等で速やかに実行する事項として挙げられている。
確かに、長期化する雇用情勢の悪化により就職活動の意欲が低下している生活保護受給者が存在する可能性は否めず、職業訓練など就労につながる施策は必要不可欠である。しかし、職業訓練との関係において、このように生活保護打ち切りの対象とすることは、受給者の意に反する職業訓練を強制することになりかねない。現在の不況下で求職の努力をしても就労に結びつかない多くの生活困窮者は、自信を喪失し自己否定感にさいなまれ、精神的に疲弊しているのが現実である。「中間とりまとめ」における対策には、その状況に更に追い打ちをかけるような運用の危険性が含まれていることに注意すべきである。
現行生活保護法は昭和25年改正により、「能力があるにもかかわらず、勤労の意思のない者、勤労を怠る者、その他生計の維持に努めない者、素行不良な 者」などの欠格条項(旧法2条)を廃した。いかなる困窮原因があろうとも、国民が皆、無差別平等に自立の機会を与えられるべきであるとする趣旨に基づくものである。上記の職業訓練との関係で保護廃止できるような運用は、この改正の趣旨に反し、立法によらずして欠格条項を復活させ、自立の機会を制限する危険性を孕んでいることを強く懸念する。
生活保護受給者が史上最多となったことや、それに関連した貧困ビジネス、不正受給等の問題のみが取り上げられることで、生活保護受給者や支援が必要な者の生存権が、侵害されるようなことがあっては決してならない。自律的な意思決定なしに、真の自律・自立は考えられない。
以上の視点から、当連合会は、今回の「中間とりまとめ」の対策については、今後、より一層慎重に検討することを要請するものである。