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会長声明集
2022年(令和04年)12月20日
親子法制に関する改正民法の成立にあたっての会長声明
日本司法書士会連合会
会長 小 澤 吉 徳
令和4年12月10日、「嫡出推定の見直し」等に関する改正民法が成立した。当連合会は、改正民法の成立により、これまで法の不備により生み出されてきた「無戸籍」問題の解決については、一定の効果は期待できるものの、課題が積み残されることになると考える。
まず、母子にも嫡出否認の申立権が認められたこと、嫡出否認の申立期間が伸長されたこと、さらに、改正法施行後1年間の期間に限るとはいえ、施行前の出生を嫡出否認の対象としたことは、無戸籍者の救済措置として評価できる。
また、「嫡出推定」に関する規定が見直された結果、改正後は、妻が前夫との離婚後に後夫と法律上の婚姻(再婚)をしたケースでは、「無戸籍」問題は生じにくくなると考えられる。ケースが限定されるとはいえ、「無戸籍」問題の解決を図るべく、「嫡出推定」規定が改正されたことは評価できる。加えて、女性に限って求められていた離婚等の後100日の「再婚禁止期間(待婚期間)」に関する規定が削除されたことは、妻が後夫との法律上の婚姻(再婚)をしやすくなり、前記のとおり、「無戸籍」問題の解決につながり、男女平等の観点からも評価できる。
しかし、妻が前夫との離婚後に現パートナーとのいわゆる事実婚を選択したケースや、そもそも妻が法律上の夫と離婚できないケース(法律上の夫のDV等により)、さらには、「離婚等の後300日以内」という日数が残ったことによって、早産のケース等では、改正後も「無戸籍」問題が生じ得ることになる。家族のあり様が多様化する中で、これらの点については、課題の積み残しと指摘せざるを得ない。
今般成立した改正民法では、児童虐待を「しつけ」とすり替える口実とされてきた「懲戒権」の規定が削除され、子の人格の尊重等に関する規定が整備された。これにより、体罰や子どもの心身の健全な発達に悪影響を及ぼす言動等が禁止されることになった。今後、子どもの人格を尊重し、子どもを権利主体として認識するよう、社会のさらなる意識の変化と理解の深化につながることを期待したい。
戦後、「家」制度が廃止され、社会のあらゆる場面で男女平等への取組がされている中でも、「嫡出推定」を定めた民法第772条は、明治31年(1898年)の民法施行以来、120年以上に亘り、その形を変えることはなかった。近年の離婚及び再婚の実情に鑑みると、遅きに失した感は否めないが、今回、民法第772条の見直しという大きな山が動いたことは素直に評価し、今般の改正民法の成立に尽力された関係各位には大きな賛辞を送りたい。
先に指摘したとおり、今回の改正によっても、残念ながら「無戸籍」問題は完全には解決しない。法律実務家である我々司法書士は、既に無戸籍で苦しんでいる方、今後、無戸籍となる方を一人でも多く、速やかに救済できるよう、全力を尽くす所存である。
立法府においても、課題の積み残しを放置することなく、さらなる法の改正、改善に取り組まれることを期待する。