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会長声明集
2017年(平成29年)04月07日
貸金業法改正10年を経て(会長談話)
「多重債務者」の増加が深刻な社会問題となり、平成18年12月に貸金業法が改正され既に10年が経過しました。この改正貸金業法は、総量規制の導入(借入総額を原則として年収の3分の1までに制限)及び貸金業者に対する規制の強化を主な内容としたものです。これに伴い、この10年間で貸金業者からの借入件数、借入残高、自己破産の申立件数及び経済的問題を動機とする自殺者数がそれぞれ大幅に減少するなどの効果があり、一定の評価をすることができます。
しかし、平成28年は自己破産の申立件数が前年比1.2%増の6万4637件となり、13年ぶりに増加に転じました。これは、近年、総量規制の対象外となっている銀行によるカードローンを含む消費者向け貸出残高が増加し、年収の3分の1を超える貸付が行われていることがその背景にあると考えられます。
そもそも総量規制が導入されたのは、収入と債務の総額のバランスを考慮し、収入に比してどの程度までが多重債務に陥らない借入なのかが検討された結果です。
そこで、金融庁は「主要行等向けの総合的な監督指針」(以下「監督指針」という。)において、「改正貸金業法における多重債務発生抑制の趣旨や利用者保護等の観点を踏まえ、所要の態勢が整備されることが重要である」とし、銀行に対して、①改正貸金業法の趣旨を踏まえた適切な審査態勢等の構築、②審査等における第三者が保有する信用情報の利用の構築、③法令遵守等(改正貸金業法の趣旨を踏まえた対応等)を求めていました。さらに、平成29年3月には全銀協から監督指針に基づき、「配慮に欠けた広告・宣伝の抑制」、「健全な消費者金融市場の形成に向けた審査態勢等の整備」について「銀行による消費者向け貸付に係る申し合わせ」と題した文書が発せられました。これに加え、今般の第193回通常国会の参議院決算委員会において、貸金業法の総量規制の対象外とされている銀行カードローンへの規制の強化について質疑がされ、総理大臣、財務・金融担当大臣が対応を約するという状況になっています。
しかし、こうした対応が取られたとしても、過剰な借入れをしてしまえば多重債務に陥る危険性は例え借入れ先が銀行であったとしても同じであって、規制の対象とする借入れ先を貸金業者に限る理由には乏しいと考えます。また、銀行の個人向けカードローンにおいては大半が保証会社の保証を条件としていますが、その保証業務を担っているのが総量規制の対象となっている貸金業者であること自体問題です。
自己破産申立件数が増加に転じた今、多重債務問題の根絶という本来の目的を達成するため、貸金業者が銀行融資の保証会社となる場合には、その保証金額を自社貸付金額と同様に総量規制の対象とするべきですし、クレジットによる立替払についても総量規制の対象とするべきです。
また、出資法の上限金利の引下げも行われましたが、超低金利の現在においては、利息制限法の上限金利は貸金業者や銀行カードローンの貸付の高金利を容認する根拠に変じてしまっているのが現実です。昭和29年に定められた利息制限法の上限金利が現在においても適正なものであるか見直す必要があります。言うまでもなく、利息制限法の制限利率は、社会実態や市場金利と見合う利率、利用者の生活を破綻に導かない利率でなければなりません。
当連合会は、今後も市民の身近な法律家として、多重債務問題の抜本的解決のため、積極的に多重債務者救済の活動をするとともに、法の適正な運用や新たな法改正を提言していく所存であります。
平成29年4月7日
日本司法書士会連合会
会長 三河尻 和夫