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総会決議集
生活に困窮する方々の生活再建のため、破産・再生手続における官報公告につきプライバシーの確保をすべく、官報公告制度の改善に向けて行動する決議
2022年(令和04年)06月24日
日本司法書士会連合会 第87回定時総会【議案】
日本司法書士会連合会は、いわゆる「破産者マップ事件」等の発生により当事者の生活再建が阻害されることを防ぐ視点から、生活に困窮する方々の生活再建のため、破産・再生手続における官報公告につきプライバシーの確保をすべく、官報公告制度の改善に向けて行動する決議【提案の理由】
1.新型コロナウイルス感染症の感染拡大による影響が続く中、生活福祉資金の特例貸付等を利用し、なんとか急場を乗り切ってこられた市民の方々が、今後据え置き期間の満了により返済開始となり、また、金融機関や消費者金融、信販会社から借り入れてしのいでいた方も含め、今後、返済に窮し生活に行き詰まることが危惧される。
コロナ禍において、増加することが想定される破産や再生といった法的手続が、債務者の経済生活の再生の機会として十分に機能し、必要とする方々が安心して手続を行うことができるものでなければならないことは当然である。2.この点、平成31年3月ごろから、「破産者マップ」という官報公告上の破産者等の情報を集約した地図が、インターネット上に公開されたことが大きな社会問題となった。同サイトの閉鎖後も、「モンスターマップ」「真実マップ」など同様のサイトが出現しては閉鎖することを繰り返しており、本日現在、現存しているサイトもある。
これらのサイトの一部について、政府の個人情報保護委員会が停止命令を発出していることからも、官報公告の無断転載についてプライバシー権侵害の問題があることは明らかである。3.いわゆる「破産者マップ事件」をいかに防いでいくのかという観点と、破産手続等における債権者保護の機会確保の要請という観点から、現在の官報公告について考えると、まず、法人破産においては、取引等により債権者が多数に上ることが多く、そのために広く権利行使の機会確保の必要があることは当然であり、官報公告は有効な手法である。
しかし、個人破産は多くの借入先が消費者金融、信販会社、金融機関等の特定の少数であることが多く、官報公告が必ずしも不可欠な手続きとは言えない状況である。官報公告を行うことで、破産手続きが終了した以降も、複製などにより破産者の情報が半永久的に公開される可能性がある状態に置くことは、破産者等に対する不当な制裁であり、かつプライバシー権侵害以外の何物でもなく、破産を債務者の経済的更生のための権利とする破産法の理念に強く反するといえる。4.債権者保護の観点と、破産者等のプライバシー権の確保の観点については、下記のような方法により両立可能であり、検討すべきである。
(1)官報公告内容から破産者等の住所を除き、住所の特定を防ぐ
(2)インターネット官報について閲覧制限を強化し、目的外利用を防ぐ
(3)官報公告自体を廃止し、信用情報機関の利用で代替、または知れている債権者に対して個別に通知する(破産法第32条第3項等)ことをもって公告をしたものと看做す
(4)官報公告の無断転載など、破産法等が定める公告の目的に反する利用が確認された場合の罰則を強化するまた、現在、法制審議会「民事執行・民事保全・倒産及び家事事件等に関する手続(IT化関係)部会」において倒産手続のIT化に伴う破産公告の見直しについても検討が行われているが、上記のような制度の導入の可否についても検討すべきと考える。
5.結語
これまで述べたとおり、私たち司法書士が、官報公告の在り方について検討し、官報に掲載される情報に関するプライバシーの確保に取り組んでいくことは、多重債務問題・貧困問題の解決の一助となり、市民の生活再建に資するものである。そしてそれが、国民の権利擁護を使命とする私たちに課せられた責務であると考える。よって、本決議を提案する。(経費と財源)必要な経費は、令和4年度一般会計収支予算案のうち、「Ⅱ 事業費」の「1 制度改善費」をもって充てる。不足分については、「Ⅴ 予備費」から支弁することとする。