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総会決議集
司法書士が法律家としての使命を果たすため、養育費問題、面会交流支援について、専門部署の設置の検討を含め、積極的に取り組むべく行動する決議
2019年(令和元年)06月20日
日本司法書士会連合会 第82回定時総会【議案の趣旨】司法書士が法律家としての使命を果たすため、日本司法書士会連合会は、養育費問題、面会交流支援に関する下記の諸事業について、専門部署の設置の検討を含め、積極的に取り組むべく行動する。
一 子どもの貧困問題の改善
二 養育費問題の解決支援
三 民事執行法改正に対する対応
四 面会交流の支援【提案の理由】
1.はじめに
現在、「子どもの相対的貧困率」は13.9%に上っており(平成28年度国民生活基礎調査)、7人に1人の子どもが貧困状態に置かれている。また、子どもがいる現役世帯のうち大人が1人の世帯の相対的貧困率(等価可処分所得の中央値の半分である122万円に満たない世帯員の割合)は50.8%となっている(同)。つまり、ひとり親世帯の2世帯に1世帯が貧困という恐るべき状況にある。OECD加盟国の中でも、最悪の水準にある。2.養育費問題解決の必要性
現在、離婚母子家庭において「養育費の取り決めをしている世帯」は42.9%に過ぎず、「養育費を現在も受給している世帯」は24.3%という大変低い数値となっており(平成28年度全国ひとり親世帯等調査より)、このような養育費の状況が子どもの貧困を助長しているものと考えられる。
このような状況の中、私たち司法書士は、子どもの貧困改善のため、養育費に関して、業務として改善に資することが可能である。具体的には、養育費の金額を取り決める離婚時の公正証書作成支援、離婚調停申立書類作成、養育費請求調停申立書作成、強制執行申立書作成などの書類作成業務、また、これらに関する相談である。
なお、最高裁の「裁判の迅速化に係る検証結果(第7回)」によると家庭裁判所の婚姻関係事件において、代理人が当事者双方に就任している事件は22.1%に過ぎず、当事者双方ともに代理人が就任していない事件は48.6%にも上る。本人調停が非常に多い、ということであり、司法書士の裁判書類作成業務のニーズが強く推察される。
このような社会情勢の認識のもと、事業報告にもある通り、昨年の全国一斉養育費相談会が開催されたものと理解しているところである。3.民事執行法改正との関係
本年5月10日、改正民事執行法が成立した。大きな改正項目として、「債務者以外の第三者からの情報取得手続の新設」が挙げられる。不払いの場合などに、裁判所に申立を行い、不動産情報、預金口座情報を取得することが債権一般に認められた。さらに、養育費債権に関しては、支払い義務者の勤務先情報を取得することまで認められた。
今まで、養育費請求の現場において、大きな障害であったのが「差押対象物の特定」であった。預金口座がわからない、相手の現在の勤務先がわからない、という場合には、事実上の泣き寝入り状態となり、子どもの生活のための養育費の支払いが確保されないという状況にあった。このような状況が、劇的に改善されるのが、今回の法改正である。施行日は1年を超えない日(不動産情報取得のみ2年を超えない日)となっており、施行後は、各種情報提供申立のニーズが爆発的なものとなり、併せて、債権差押命令申立、養育費請求調停申立、養育費増額調停・減額調停が増加することが容易に想定される。もはや、待ったなしの状況である。
さらに、養育費とともに、子どもの成長の両輪ともいえる、面会交流についても非常に低調な状況である(面会交流を行ったことがない46.3%、現在も面会交流を行っている29.8%:母子世帯)。母子世帯の母が面会交流を実施していない理由のうち1位は「相手が面会交流を求めてこない(13.5%)」、2位は「子どもが会いたがらない(9.8%)」3位が「相手が養育費を支払わない(6.1%)」となっている。法改正を機に、養育費支払いが増加することに伴い、面会交流調停が増加することが想定される。養育費と面会交流は、いずれも離婚家庭の子どもの成長にとって大変重要な要素である。「安全安心を前提とした子どものための面会交流」を実現するため、面会交流に対しても、取り決めの場面(公正証書作成、調停書類作成、相談)と実施の場面で、司法書士が積極的に取り組んでいくことが重要である。4.結語
今般の司法書士法改正の審議過程においては、参議院法務委員会で法務大臣より、使命規定中の「権利擁護」には「憲法上の基本的人権の擁護を含む」と答弁がされている。さらに、同委員会の質疑においては、連合会が実施した全国一斉養育費相談会について「関係者の皆様に対して深い敬意と謝意を表する」とも述べられ、同相談会が立法事実の一つとして掲げられた。法改正により、人権擁護の担い手として、子どもの貧困改善のため養育費問題により一層取り組んでいくことが求められているのは当然のことである。
また、司法書士が家事代理権獲得を目指すのであれば、社会問題である養育費問題・面会交流支援に全力で取り組まなければ、社会からそのような付託を受けることは困難である。なぜならば、家事事件の多くを占めるのは、婚姻関係事件であり、これに対応しない法律家に代理権を付与することは妥当でないからである。
過去を振り返れば、簡裁代理権が付与されたのは、阪神淡路大震災での地道な相談活動や、多重債務問題への取り組みが社会から評価されてのことである。今、ここで養育費・面会交流の問題について、圧倒的な質と量をもって司法書士が取り組むことこそ、家事代理権の獲得、執行代理権の獲得、ひいては司法書士業界の発展につながることは明白である。
上記の観点から、司法書士は法律家としての使命を果たすため、会員各自が養育費問題の解決・面会交流支援に向けた相談活動、裁判書類作成業務等に積極的に従事していく必要がある。また、日本司法書士会連合会は、こうした会員一人ひとりの業務をより充実したものとするため、各種の相談会活動、研修事業、会員に対する情報提供や執務支援制度の創設、他の関係機関との連携による問題解決体制の構築、さらには制度改善要望等を積極的に図っていく必要がある。
現在、日本司法書士会連合会では、家事WTにおいて養育費に関する講師派遣や相談会の開催、子どもの権利擁護部会において面会交流実施支援、民事法改正対策部において民事執行法改正についての検討がされているが、縦割りの状況を解消し、守るべき対象に即した組織作りへと再構築を検討することも必要である。日本司法書士会連合会が、司法書士界全体で養育費問題、面会交流支援に取り組むための推進力となるべく、令和元年度事業計画に関連して、本決議を提案するものである。(経費と財源)必要な経費は、令和元年度一般会計収支予算案のうち、「Ⅱ 事業費」の「1 制度改善費」をもって充てる。不足分については、「Ⅴ 予備費」から支弁することとする。