成年年齢引下げ

教職員の方にお伝えしたいこと
-司法書士の取り組みもご紹介します

小学校、中学校、高等学校、特別支援学校のお子様の保護者のみなさんもご覧ください。

【成年年齢引下げと学校教育】
成年年齢が18歳になることで、学校教育はどのように変わるのでしょうか。

<児童・生徒を成年者へと育てあげる教育が求められています>
これまでは、20歳で成年を迎える前に、中学校を卒業して就職した人ならば4年程度、高等学校を卒業して就職・進学した人ならば1年程度、就職先や進学先でおとなの社会人として生きていくための基礎的な知識や技能を実践的に学ぶ機会がありました。しかし、成年年齢が18歳になると、このいわば準備期ともいえる期間が短くなります。高校生なら3年生の在学中に18歳=成年となりますので、遅くとも高校2年生までに、成年者に必要な基礎的な知識や技能を学んでおきたいところです。
教職員のみなさまは、各学校の教科の学習や、教科外活動の指導の中で、児童・生徒を成年者へと育てあげていくための様々な工夫がこれまで以上に求められるようになると思います。令和2年度から順次実施されている新学習指導要領(注)も、成年年齢引下げの動向を踏まえての改訂がされています。

<学校教育支援に対する司法書士の決意>
とはいえ、子どもたちを成年者へと育てあげていくことは、教職員のみなさまだけの役割ではありません。成年年齢引下げというのはたいへん大きな社会制度の改革です。それぞれのご家庭をはじめ、地域・社会で子どもたちと関わるおとな全体が、この社会制度の改革を共に担い、18歳の若者を成年者の一員として迎えるための広い意味での教育に関わっていく必要があるでしょう。
「国民の権利を擁護し、もつて自由かつ公正な社会の形成に寄与することを使命とする(司法書士法第1条)」司法書士も、学校教育に対する様々な支援や情報提供により、18歳の若者を成年者の一員として迎えるための専門家としての役割を、積極的に果たしていきたいと考えています。

(注)小学校学習指導要領(平成29年告示)は令和2年度から、中学校学習指導要領(平成29年告示)は令和3年度から、それぞれ全面実施。高等学校学習指導要領(平成30年告示)は令和4年度入学生から年次進行で順次実施。

【消費者教育を扱う家庭科の学習内容】
成年年齢が18歳になることで、若年者の消費者トラブルの増加が心配されています。消費者教育を扱う家庭科の学習内容は、どのように変わるのでしょうか。

<小学校で「売買契約の基礎」を学ぶことになりました>
学校の教科の学習の中で、消費者教育を主として扱うのは家庭科です。具体的には、小学校5・6年生の「家庭科」、中学校の「技術・家庭科」(家庭分野)、高等学校の「家庭科」(家庭基礎、家庭総合)で、それぞれ発達段階に応じて、「消費生活と環境」に関連する事柄を学びます。
消費者トラブルの多くは、売買契約やクレジット契約等の契約に関連するものですので、成年者となる前に、契約についての基礎的な知識や技能、考え方の原則などを学んでおくことは重要です。そこで、家庭科では、買い物をする際の意思決定過程の重要性に着目させながら、小学校の家庭科(5・6年生配当)では「売買契約の基礎」を、中学校の技術・家庭科(家庭分野)では「売買契約」「クレジットなどの三者間契約」を学習します。

<司法書士業務とも関連が深い家庭科の学習内容>
この他にも家庭科では、消費者被害(中学校)、消費者信用や多重債務に関わる問題(高等学校)など、身近で具体的な消費者トラブルの事例も学習しますし、高等学校では、家族・家庭に関わる法律や成年後見制度など、司法書士の業務と関連の深いテーマの学習もあります。
各地の司法書士会は、出張法律教室事業などで「契約」の仕組み・原則について教えながら、消費者被害に関連する様々な事例や情報を伝える授業や講演を数多く実施しています。教材開発や教職員向け研修にも対応している会もあります。専門家と連携した教育活動は、新学習指導要領が重視する「主体的・対話的で深い学び」の実践の一助ともなり得ます。この機会に、地元の司法書士会の取り組みにもご注目ください。

https://www.shiho-shoshi.or.jp/association/shiho_shoshi_listh/

【社会科・公民科の学習内容】
成年になるまでに必要な知識というと、社会科や公民科で教える内容も重要だと思います。司法書士会の出張法律教室などのテーマには、社会科や公民科の学習内容と一致するものがありますか。

<ご要望に応じたテーマでの授業・講演をしています>
小学校の「社会科」、中学校の「社会科」、高等学校の「公民科」で学ぶ知識、すなわち、現代社会の特徴、きまりの意義と契約、日本国憲法や民主政治の仕組み、選挙制度、司法制度、経済活動、雇用、労働法、社会福祉、財政、国際問題、その他全ての知識が、成年になるために必要な知識だといえるでしょう。
これまでも、各地の司法書士会は、様々なテーマで出張法律教室等の授業や講演の取り組みをしてきていますが、これらの多くは、学校側のご要望に応じてテーマを定め、実践しているものです。たとえば、社会科や公民科の授業の中で、あるいはそれと連携する形でこのテーマを取り上げてほしいとご要望をいただければ、対応は可能かと思います。詳しくは、地元の司法書士会とご相談ください。

<司法書士による法教育で、主体的・対話的で深い学びを>
新学習指導要領では、知識を身につけるだけでなく、「主体的・対話的で深い学び」を通じて知識を確かにするとともに、思考力、判断力、表現力等を身につけることを重視しています。社会科、公民科では、法的なものの見方、考え方を学ぶことも重要です。現実の社会で起こっている様々な事象に対応している専門家=司法書士と学校で出会うことで、興味や関心を高めて学んでいく体験は、この実践の一助ともなり得ます。

https://www.shiho-shoshi.or.jp/association/shiho_shoshi_listh/

【特別支援学校の児童・生徒への学習支援】
特別支援学校で学ぶ児童・生徒も、18歳で成年者となりますので、今まで以上に早期に学習を支援していくことが必要になります。知的障害など特別な支援が必要な児童・生徒に対し、どのような学習支援が必要でしょうか。

<成年後見制度の専門家としてお伝えできることがあります>
司法書士は、成年後見制度についても専門家です。認知症、知的障害、精神障害等によって物事を判断する能力が十分ではない方のために、成年後見人等に選任され、それぞれ被後見人等のご本人を法的に支援し、財産を守り、消費者被害を防ぐ等の職務を遂行している司法書士もいます。司法書士は、これらの職務上の経験から、特別な支援が必要な児童・生徒が成年者となったとき、実際にどのような支援が必要か、どのようなトラブルが起こりうるかといった情報もよく知っています。
一方で、司法書士は、特別な支援が必要な児童・生徒の教育については専門家ではないので、知っていること、伝えたいことがあっても、児童・生徒に効果的に伝える方法を知りません。司法書士が知っていること、伝えたいことを伝えるためには、支援教育の専門家である教職員のみなさまとの連携が不可欠です。
実際に、特別支援学校での出張法律教室等の取り組みをしている司法書士会では、教職員のみなさまと協働して、たとえば、児童・生徒に分かりやすい教材をつくったり、チームティーチングのようにご一緒に授業を行ったり、反復学習を行ったりと、様々な工夫をしながら必要な知識や情報をお伝えする試みをしています。
詳しくは、地元の司法書士会にご相談ください。

https://www.shiho-shoshi.or.jp/association/shiho_shoshi_listh/

【学校内で発生した民事紛争への対応】
成年年齢が18歳になることで、これからは学校の中でも、成年になった生徒同士が、たとえば金銭の貸し借り、持ち物の売買・交換・贈与などの契約をすることもあり得ます。そこからおとなと同様に民事紛争が起こることもあり得ますし、不法行為の損害賠償が問われるようなことも起こるかもしれません。成年になった生徒と未成年の生徒の間で何らかの契約トラブルが発生し、未成年の生徒は未成年者取り消しができるが成年者の生徒はできない、というようなトラブルも想定されます。このような場合、教職員は、どのように対処すれば良いでしょうか。

<生徒間民事紛争は、指導の域を超えることもあり得ます>
学校は、教育・指導の場ですので、生徒間で具体的な民事紛争が起こっているときは、紛争当事者である生徒に対し、ADRも含め司法制度を具体的に活用することを指導する良い機会であるかもしれません。しかしながら、実際には、具体的な民事紛争が発生しているときに一方に味方するような(そのように見えるような)発言や行動をすることは難しく、指導の域を超えてしまう可能性も高いのではないでしょうか。場合によっては、教師と生徒という立場を超えて、民事紛争の証人や当事者となってしまう可能性もあり得ます。
個々の事例により、対処方法も異なってくると思います。一人で悩み、判断するのではなく、他の教職員とも相談しながら、早めに専門家に相談することも大切です。

生徒・卒業生などが司法書士や専門家に相談を希望しているときは、質問したいこと、相談内容を整理してみるようアドバイスをお願いします。
成年年齢引下げ対応委員会で作成しました「専門家への質問・相談メモ」(PDF版エクセル版)を是非ご活用ください。

https://www.shiho-shoshi.or.jp/consulting/index

【18歳になるまでに知ってほしい法律知識】
司法書士という専門家の視点から、18歳になるまでに、簡単な知識だけでも知っておいてほしい法律の知識として、何が思い浮かびますか。

各地の司法書士会が出張法律教室等で取り上げているテーマの中から、下記に列記します。
①家庭科で学習する内容の全部

特に、衣食住生活に関わる法律、民法(夫婦、親子、親族、相続)、
契約、消費生活に関わる法律、社会福祉・社会保障に関わる法律

②社会科・公民科で学習する内容の全部

③特に重要なテーマとして

就職する、人を雇う・・・労働基準法、労働契約法、均等法
赴任先、進学先で家を借りる・・・・賃貸借契約
奨学金等の借入・・・・金銭消費貸借、連帯保証契約
起業をしたい・・・・会社設立と司法書士
訴状が送られてきた・・・・裁判への対応の仕方、基礎知識
ハラスメントへの対応
18歳選挙権・・・・公職選挙法

https://www.shiho-shoshi.or.jp/association/shiho_shoshi_listh/