会長声明集
生活保護基準引下げをめぐる最高裁判所令和7年6月27日判決に関する会長声明
日本司法書士会連合会
会長 小澤 吉徳
令和7年6月27日、最高裁判所第三小法廷は、平成25年以降に行われた前例のない大幅な生活保護基準の引下げ(以下「本件引下げ」という。)につき、生存権を保障した憲法第25条に反するなどとして、生活保護の減額処分の取消し等を求めた訴訟の上告審において、各処分の取消しを認める画期的判決を下した。当連合会は、生活保護基準の引下げ等に関する会長声明を発出するなど本件について注視しており、ゆがみ調整の2分の1処理に違法はないと判断した点及び国家賠償法第1条第1項にいう違法はないと判断した点は当該保障の観点から必ずしも十分ではなく懸念が残るが、本判決で示された各処分の取消しを認める判断を支持するものである。
本件引下げの違法性を争う訴訟は全国29の地方裁判所に提起されており、今回の判決は、大阪高等裁判所令和5年4月14日判決及び名古屋高等裁判所令和5年11月30日判決に関する上告審判決である。
一連の訴訟では、生活保護基準と一般低所得世帯の消費実態との間における格差を是正するゆがみ調整や物価の下落分を反映させるためとして行われたデフレ調整といった、生活保護基準の改定の基礎となる計算方法に不備があったことが追及され、本件引下げの算定根拠の矛盾点が次第に明らかとなった。その結果、下級審では、地方裁判所段階で31件中20件が原告勝訴、高等裁判所段階では12件中7件が原告勝訴となり、判断が大きく分かれるに至ったため、今回の上告審における判断は注目されていた。
生活保護基準は、憲法第25条が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」の水準を具体化するものであるから、統計の数値や専門的知見に基づいて客観的に定められるべきである。また、生活保護基準の決定に際して考慮すべき事項は、生活保護法第8条第2項の趣旨に沿ったものでなければならず、これ以外の事項が考慮されることはあってはならないし、それらの事項の採否、具体的な適用の在り方及びそれらの検討過程に係る国民への周知についても、生活保護制度の趣旨に沿った合理的なものが求められる。この点、本判決は、統計等、政策判断における専門技術的な考察において取り扱われるものの在り方につき、それらのものと政策判断との間の合理的関係性や専門的知見との整合性のみならず、専門的知見に基づく説明その他の周知が十分に行われることの重要性も大枠として示しており、今後の我が国における政策決定の在り方につき、多くの示唆を含むものである。
更に、生活保護基準は、我が国の社会福祉に係る政策決定において、最も重要な指標の一つとなっており、様々な社会保障制度(地方税の非課税基準、就学援助の給付対象基準、国民健康保険の保険料・一部負担金の減免、介護保険の保険料・利用料の減免など)と連動している。加えて、最低賃金の引上げ目標額となっていることなどからしても、生活保護基準の引下げは、生活保護制度を利用していない国民全体の生活水準にも極めて重要な影響を及ぼすものである。
よって、当連合会は、国に対し、本判決に従い、引き下げられた生活保護基準を見直すとともに、全ての生活保護利用者に対する本件引下げ前の基準による保護費等の差額支給や生活保護基準と連動する諸制度への影響の調査等、必要な措置を速やかに講じるよう求めるものである。
当連合会は、これまで各司法書士会及び司法書士が行う相談会や社会保障手続の同行支援など経済的困窮者に対する法律支援事業への助成をはじめ様々な取組を行ってきた。現在も、物価高騰により生活保護費では生活を維持することが難しい生活保護利用者がいる現実に目を向け、今後も、国民の権利擁護と自由かつ公正な社会の形成に寄与することを使命とする司法書士の団体として、生活保護利用者をはじめ経済的に困窮する方々に寄り添い、その権利の擁護に資する取組を行っていく所存である。