-
会長声明集
2018年(平成30年)03月07日
「株式会社の不正使用防止のための公証人の活用」に関する会長声明
日本司法書士会連合会
会長 今川 嘉典
法務省は,平成30年2月27日,暴力団による事件や資金源の根絶を図るため,株式会社を設立する際,その実質的支配者が反社会的勢力に所属していないこと等を公証人に対して申告させるように義務付け,公証人が確認する仕組みを設けることとし,公証人法施行規則(昭和24年法務府令第9号)を改正する方向である旨を発表した。これは,FATF勧告により,株式会社等の実質的支配者に関する情報を明らかにさせる仕組みを整えることが国際的な要請となっていることを受けたものであり,例えばドイツやフランスのように,実質的支配者を登記することが新たに義務付けされた国もあるところである。日本においては,会社法その他の法制度を勘案し,公証人の活用を図ることが最も適切であると考えられているものであるが,定款認証の嘱託者の代理人として公証人と接する機会が多い司法書士の立場からは,この方向性を高く評価するものである。
商業登記の実務においては,既に平成28年10月施行の改正商業登記規則により,登記すべき事項につき株主総会の決議を要する場合には,株主総会議事録に加えて,いわゆる「株主リスト」を添付しなければならないものとされており,登記申請の資格者代理人である司法書士としても,依頼者である株式会社の株主名簿の確認が不可欠となっているところである。「犯罪による収益の移転防止に関する法律」(平成19年法律第22号)によれば,司法書士等の士業者は,依頼者である法人の本人確認の場面で,その実質的支配者に関する情報の申告を求めなければならないこととはされていないが,今般志向されている公証人法施行規則の改正によれば,依頼者である法人の実質的支配者が誰であるのかについても,十分留意しつつ,関与していかなければならないこととなると考えられ,その職責を深く自覚するところである。
昨今,商業登記事務の迅速化や手続の簡素化等の議論があるところであるが,商業登記は,公示の制度であり,会社等の信用の重要なインフラである。単に,申請されたものを登録するだけの制度ではなく,会社法に規律された手続が適法に履行されているかについて,議事録等の添付書面による審査が登記所において行われていることによって真正が担保されているからである。株式会社の設立手続のポータルである公証人による定款認証の場面で,定款作成の真正及び内容の適法性審査が必要な手続として行われると共に,実質的支配者が反社会的勢力ではないこと等の申告が公証人に対してされることにより,消費者詐欺犯罪やマネーロンダリング等の株式会社の不正使用が予防され,株式会社制度が健全に利用される社会が構築されて,商業登記制度が信頼されるべきインフラとして益々その機能を高めていくことを期待して止まない。
以上