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総会決議集
裁判所提出書類等の作成に関する相談環境の充実を図り、司法アクセスの向上と、市民が主体的に権利を行使するための支援策として、民事法律扶助制度の拡充を求める決議
2023年(令和05年)06月23日
日本司法書士会連合会 第88回定時総会【議案】
日本司法書士会連合会は、裁判所提出書類等の作成に関する相談環境の充実を図るため、日本国に対し、以下の通り求める。1.民事法律扶助制度を拡充し、裁判所提出書類等の作成に関する相談について民事法律扶助の援助対象とすること。
2.司法アクセスの向上と、市民が主体的に権利を行使するための支援体制の整備のため、総合法律支援法の改正を含め、必要な施策を直ちに行うこと。日本司法書士会連合会は上記を実現させるため、意見の公表、法務大臣への建議、行政庁・国会に対する要請、世論の喚起等、必要な取り組みを早急に行う。
以上の通り決議する。【提案の理由】
1.歴史的沿革
我が国における法律扶助制度は1952年(昭和27年)1月にGHQの指示に基づき、日本弁護士連合会が中心となって財団法人法律扶助協会が設立されたことに端を発している。その後、2000年(平成12年)に民事法律扶助法が成立し、民事法律扶助事業の適正が国の責務と定められ、司法書士も書類作成援助を通じて民事法律扶助の担い手として加わることとなった。2004年(平成16年)司法制度改革の一環として総合法律支援法が成立し、2006年(平成18年)に日本司法支援センター(以下「法テラス」という)が設立された。
法テラスは主に ①情報提供業務、②民事法律扶助業務、③国選弁護等関連業務、④司法過疎対策業務、⑤犯罪被害者支援業務、⑥受託業務の6つの事業を行うこととされ、司法書士も主に情報提供業務や民事法律扶助業務を通じて、法テラスに関与している。
民事法律扶助業務では、法律相談援助、代理援助、書類作成援助の3つのメニューが存するところ、法律相談援助は、その対象を「弁護士法その他の法律により法律相談を取り扱うことを業とすることができる者による法律相談」としていることから、司法書士が裁判所提出書類等作成業務について応じる相談(司法書士法第3条1項5号)については、法律相談援助の対象とはされていないのが現状である。そのため、法テラスに寄せられる市民からの相談の中には、司法書士が裁判所提出書類等作成業務により支援をすることが可能と考えられる案件も存在するものの、その前提となる相談が法律相談援助の対象とされていないことから、その多くが弁護士による相談に配てんされているところである。2.市民のニーズ
司法書士や弁護士の代理人を依頼せずに自ら訴訟を追行する、いわゆる、「本人訴訟」は一定の割合で存在している。地方裁判所における本人訴訟数は、2011年(平成 23 年)の 148,827 件(双方本人、原告本人、被告本人の合計数・以下同じ)をピークに高い数値で推移しており、2020年(令和2年)も68,126 件と訴訟事件数の 55.4%を占めている。また、簡易裁判所においては更に顕著で、2011年(平成 23 年)の 535,108 件をピークに、2022年(令和2年)は277,374 件で、訴訟事件数の 93.9%を占めている。このように、2004年(平成16年)の司法制度改革によって、代理人となるべき弁護士、司法書士の数は増大したが、本人訴訟の割合は大きな変化はなく、代理人に依らずして、自ら主体的に訴訟を行うニーズは依然として高い。
本人訴訟にあたっては、法律用語が難解であったり、書類の形式がわからず書類作成までにたどり着かない、裁判所での立ち振る舞いに不安を覚える等、障壁も多いことが報告されており、一定の支援が求められている。そのような本人訴訟を支援するメニューとして、法テラスにおける書類作成援助の潜在的利用ニーズは非常に高く、書類作成援助は代理援助に比べ、費用も低廉であることから、被援助者の経済的負担も軽減できるメリットがある。
裁判所提出書類作成を通じた本人訴訟支援の前提となる相談に関する支援体制の充実は、市民が自らの手で権利を行使し、主体的に裁判を行うための、まさに最初の一歩に対する支援であり、上記本人訴訟率を見ても必要な支援であることは自明である。
裁判所提出書類等の作成に関する相談を民事法律扶助の援助対象とすることで、継ぎ目なく書類作成援助に繋げることが出来る環境を整備することは、利用者である市民にとっても、より身近に民事法律扶助を利用することが出来る環境が整備されることとなる。3.社会の潮流
社会の変革は目覚ましく、国は社会問題への対応策として、様々な施策を実施し、制度的改変も積極的に行っている。司法書士にとって身近な分野では、所有者不明土地問題や、裁判のIT化などが挙げられるが、複雑化した権利関係を整理し、適切に権利を行使するにあたり、今後ますます裁判所の関与が求められるケースが増えることとなる。相続登記義務化に伴い、遺産分割協議の必要性も高まることから、遺産分割調停なども、今後さらに需要が増えると思われる。司法統計によれば、近年、相続放棄申述事件の新受件数も毎年約1万件ずつ増加しており、2017年(平成29年)の205,909件から、2021年(令和3年)は251,993件と5年間で約46,000件の増加となっており、この傾向は今後も続くと思われる。
裁判のIT化によって、裁判に要する時間的制約や場所的制約については、大きく改善が見込まれるが、一方でITリテラシーに乏しい市民へのサポートを含め、専門家による支援は今後も必要とされることは間違いない。4.実績
日本司法書士会連合会は、2019年(令和1年)12月から2022年(令和4年)3月にかけて、書類作成援助活用のためのモデル事業(書類作成相談モデル事業)を実施した。この事業は3つの単位司法書士会及び法テラス地方事務所をモデル会として指定し、実際に法テラスに寄せられている相談のうち、司法書士が裁判所提出書類等作成業務により支援をすることが可能と考えられる案件については、法テラス地方事務所にて相談を実施した。モデル会の1つである神奈川県司法書士会及び日本司法支援センター神奈川地方事務所では、予約件数、相談実施件数、受任・受託件数、民事法律扶助の利用件数、いずれの実績においても、法テラスに寄せられている相談の中には、司法書士法3条1項5号による相談でも対応可能な相談が一定数含まれ、また市民の需要もあることが確認されており、具体的実績としても、裁判所提出書類等作成の前提となる相談ニーズが高いことが実証されている。5.結語
市民の法的相談需要は、代理人による解決を求める相談だけなく、自主的かつ自律的に解決に向けて行動するための相談も一定数存している。市民が経済的な事情を考慮することなく、等しく法に基づく権利行使を行う環境が与えられ、自己が必要とする情報を得ることが出来る環境を整備することは、憲法32条からも国の責務であることは言うまでもない。よって、本決議を提案する。(経費と財源)必要な経費は、令和5年度一般会計収支予算案のうち、「Ⅱ 事業費」の「1 制度改善費」をもって充てる。不足分については、「Ⅴ 予備費」から支弁することとする。