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総会決議集
金融庁等に対し、多重債務問題の抜本的解決の妨げとなっている銀行等のカードローンに関して、総量規制の導入を求め、改めて積極的に多重債務者救済の活動をする決議
【提案の趣旨】
日本司法書士会連合会は、金融庁等に対し、多重債務問題の再燃を防止するため、下記の事項を要請するとともに、「市民に身近なくらしの法律家」として、多重債務問題の抜本的解決のため、法の適正な運用や新たな法改正を提言すること、ならびに、改めて積極的に多重債務者救済の活動をする。
以上、決議する。記
1.貸金業法の総量規制の趣旨を踏まえ、銀行等の個人向けカードローンについても総量規制の対象とすること。
2.銀行等が個人向けカードローン融資を行うにあたり、貸金業者が融資の保証会社となる場合には、その保証金額を貸金業者における自社貸付金額と同様に扱い、貸金業法の総量規制の対象とすること。
2017年(平成29年)06月20日
日本司法書士会連合会 第80回定時総会【提案の理由】
1.「過剰貸付抑制(総量規制)」からの除外
我々司法書士を含む、全国民的な活動の結果、平成18年12月に改正貸金業法が成立した。多重債務問題の根本原因の一つである貸金業者による過剰貸付抑制のため、貸付総額を利用者の年収の3分の1までに制限する、いわゆる「総量規制」が導入され、貸金業者に対する行為規制及び金利規制が強化されたことは周知のとおりである。
これらの施策により、貸金業者の貸付は大幅に減少し、多重債務者数も劇的に減少した。しかしながら、法改正の際に銀行等の個人向けカードローンは総量規制の対象とされず、先送りされた。
2.自己破産申立件数の再増加
最高裁公表の司法統計によると、平成28年は自己破産の申立件数が前年比781件増(1.2%増)の6万4637件となり、13年ぶりに前年を上回り、増加に転じている。総量規制が導入されて以降、総量規制の対象とはならなかった銀行等の個人向けカードローンの残高が急速に増加し、平成28年末は約5.4兆円と平成22年3月より65%も増加している。今回の自己破産件数の増加は、銀行等の個人向けカードローンの貸付残高の増加が影響した結果であることは明らかである。
3.法規制の必要性
そもそも、改正貸金業法が成立した背景には、貸金業者による自主規制では多重債務問題の解決を図ることが困難であったことが挙げられる。これは、銀行にもそのまま当てはまり、自主規制による対応では多重債務者の増加の懸念は払拭できないため、銀行カードローンについても、法規制の対象とすべきである。
4.貸金業者による保証と銀行カードローンの関係
また、銀行カードローンの貸付増加の背景には、貸金業者による保証も大きく関係している。総量規制の適用とならない銀行等のカードローンについて、貸金業者が保証を行う形をとり、貸金業者が名目上「保証」をするための審査という形で実質的には審査を行い、利用者が支払いを延滞した場合には銀行に直ちに代位弁済し、その後の債務者に対する取立ては貸金業者が全て行うというものである。その実質は、貸金業者による貸付と同視できるものであり、総量規制の潜脱的貸付と評価ができる。
そもそも改正貸金業法において、貸金業者に対して総量規制が導入されたのは、自社の利益のために利用者の返済能力を無視して過剰な貸付を行うことにより、「多重債務問題」を惹起させたことに起因している。
現在、自己破産申立件数が増加に転じた以上、多重債務問題の抜本的解決という本来の目的を達成するため、銀行等が個人向け融資を行うにあたり、その過剰貸付を抑制させるために貸金業者が融資の保証会社となる場合には、その保証金額を貸金業者の自社貸付金額と同様に、総量規制の対象とすべきである。これは貸金業法改正により直ちに行うべきである。
5.銀行は社会的役割を果たすべき
なお、昨今の不況により、実際に生活困窮のために銀行に借入れやその相談に訪れる市民も少なくないはずであるが、各銀行の窓口が総量規制を前提に、真摯に貸付可能か審査を行う体制が整えば、総量規制により貸付ができない場合に、早期に多重債務の相談や状況に応じて福祉貸付やセーフティネットのなどの案内をすることにより市民生活に有用な存在となり、地域社会に根差した銀行としての役割をさらに発揮できるものと思料される。
従前の多重債務問題改善プログラムでは、まさに銀行にこの役割が求められていたのではないか。銀行は、この役割に立ち返るべきである。
以上の理由により本議案を提出する。