-
総会決議集
犯罪収益の移転にかかわる取引に司法書士は一切関与しないことを宣言するとともに、司法書士を国家への依頼者密告制度の適用対象とする犯罪収益移転防止法の改正に反対する決議
【決議の趣旨】
- 市民生活に大きな脅威をもたらすマネーロンダリング並びにテロリズムへの資金供与は断じて許されるものではなく、司法書士は、これらの犯罪収益の移転にかかわる取引に一切関与しないことを宣言する。
- 司法書士を国家への依頼者密告制度の適用対象とする犯罪収益移転防止法の改正には断固反対する。
- 前2項の目的を達するため、日本司法書士会連合会は、犯罪収益の移転にかかわる取引に関与しないための研修の実施、内部規律の策定、立法への働きかけ等の諸活動を推進する。
以上のとおり決議する。
2008年(平成20年)06月20日
日本司法書士会連合会 第70回定時総会【提案の理由】
- 本年3月1日、犯罪収益移転防止法が全面施行された。同法制定直前の平成18年度総会においては、司法書士を国家への依頼者密告制度の適用対象とする立法に反対し、また同法成立直後の平成19年度総会では、本人確認、取引記録作成義務を前提とする刑罰による強制力を背後に控える立入調査権などの本法の問題点を指摘して、「司法書士を同法の適用除外を求める」決議を採択し、同法に対し繰り返し反対の立場を表明していたが、結果、同法は施行されるに至っている。
- 同法による犯罪収益の移転とは、非合法組織が違法な手段を用いて得た利益を合法的な取引を介在させることによって、それらを一見合法的な利益に転化させようとするマネーロンダリング(資金洗浄)やテロリズムへの資金供与のことであり、これらは断じて許されるものではない。また、司法書士がこれらの犯罪収益の移転にかかわる取引に一切関与してはならない。仮に、司法書士が依頼者の取引の対象が犯罪収益であることを知っていた場合には、これにかかる取引を止めるように依頼者に助言すべきであり、依頼者がこの助言にも関わらず取引を停止しない場合には、その業務遂行を拒否すべきである。日本司法書士会連合会は、自らの自治に於いて、上記の業務姿勢を明確かつ貫徹できるような内部規律が必要である。
- 本年3月19日には、FATF(金融作業部会)の相互審査が実施され、司法書士に対しても同法の実施状況の調査が行われた。相互審査の結果において、FATF側が司法書士を始めとする五士業(他に弁護士・公認会計士・税理士・行政書士)に対して、「疑わしい取引の届出」(いわゆる依頼者密告制度)が規制対象から外れていることを指摘されることは明らかであり、それを踏まえて、政府内で五士業に対する疑わしい取引の届出義務を内容とする法改正を求める動きが生じる危険性が浮上している。
- 依頼者密告制度は、仮に司法書士の守秘義務の範囲外とする除外規定が設けられさえすれば許容できるというものでは決してない。司法書士には依頼者の利益を実現する当事者の代理人であり、依頼者密告制度が規定されるということは、司法書士の「主人」は、依頼者のみならず国家でもあることを意味する。つまり、依頼者密告義務を課すこと自体が依頼者と司法書士の信頼関係を根底から覆すものであり、ひいては司法書士制度を崩壊させるものである。また、守秘義務の範囲の内か外かは一義的に定まるものではないことから、国家が守秘義務の範囲について、これを狭めるような解釈をする可能性も否定できない。
- ついては、司法書士の守秘義務を堅持し、司法書士を国家への依頼者密告制度の対象とする犯罪収益移転防止法の改正に反対する。また、日本司法書士会連合会は、法改正に反対する立場を明確に内外に示し、他士業・諸機関等と連携し、犯罪収益の移転にかかわる取引に関与しないための研修の実施、内部規律の策定、立法への働きかけ等の諸活動を推進する。