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総会決議集
市民一人ひとりの立場にたった法教育を実践する決議
【議案の趣旨】
日本司法書士会連合会は、全国津々浦々で市民一人ひとりの立場にたった法教育が実施されるよう、司法書士講師養成研修プログラムの策定、単位司法書士会への人的・物的支援、法テラスとの連携、教育関係者等各方面への働きかけ、広報活動等に、組織を挙げて取り組む。
以上のとおり決議する。
2007年(平成19年)06月22日
日本司法書士会連合会 第69回定時総会【提案の理由】
- 司法書士は、古くは昭和50年代から、全国各地で高校等への消費者教育を中心とした出張法律教室活動に取り組んできた。これらの取り組みは、地域に密着した法律専門家として日々相談・依頼を受ける事件を通じて、市民の消費者被害、多重債務被害の状況を目の当たりにし、法や司法を市民の身近なものにしたいとの願い、若い世代の子どもたちに少しでも情報を伝えたいとのいてもたってもいられない思いから始まった。当初は、個々の司法書士、あるいは同じ思いのグループにより取り組まれ、やがて単位会の事業としての取り組みへと発展してきたものである。
- 司法制度改革の中で、平成15年から法務省で始められた法教育の研究は、平成16年11月4日、法教育研究会により「報告書」としてまとめられ、法教育とは「法律の条文や制度を覚える知識型の教育ではなく、法やルールの背景にある価値観や司法制度の機能、意義を考える思考型の教育であることに大きな特色がある」という一定の定義がなされた。 この報告書において、司法書士に対し、「市民に身近な法律家として、市民と司法を結びつける役割を果たしている」との期待が述べられ、「地域において市民生活に密接にかかわる法律実務家であるという特性を活かし、学校教育を基礎として、生涯学習までを視野に入れた取り組み、さらには、これらの実践活動を通じて、法教育の必要性を周知する役割を果たすことが望まれる」と記載されたことは周知のとおりである。
また、同報告書は、日本司法支援センター(法テラス)が提供することが想定される情報には、法教育に関する情報、法教育に取り組む法律実務家の情報が含まれていることにも言及している。法テラスにおいて司法書士が果たすべき役割をみれば、法教育に関する情報提供においても一定の役割を果たすことが期待されていると言える。 - 法教育の研究とこれに基づく教育実践の試みは、その後各界各方面に広がり、その必要性・重要性も少しずつ認識されつつある。しかし、一部の教育現場では、法教育が裁判員制度のためだけの教育と誤解されたり、難解で困難な取り組みだと敬遠されたりしている現状もあるときく。
このような現状において、司法書士は、消費者教育を通じての法教育が可能でありかつ有効な実践方法であると指摘をし続けてきた。司法書士のこうした主張は、全国で長年着実に取り組みをしてきた消費者教育等における実践の蓄積という確固とした根拠に基づく主張であるがゆえに、教育関係者に着実に理解されつつある。
同様に、多重債務者問題対策における金融経済教育の充実の必要性、消費者基本計画に基づく消費者教育の充実の必要性の検討においても、法教育の視点・手法による取り組みの有効性を主張する司法書士に対する評価と期待は大きい。 - そもそも法教育は、一人ひとりの市民が尊厳を持って生きることに資するよう行なわれるべきものである。被害に遭わないように、怖いものには近寄らないようにと、ややもすると法や司法制度から市民や子どもたちを遠ざけてしまいかねないような消費者「啓発」型の教育ではなく、市民が法や司法制度を自らの権利を守るための武器として主体的に利用していけるために、その力を引き出すような法教育が追究されつづけられなければならない。
身近な街の法律家を標榜し、市民とともに伴走者として共に闘ってきた司法書士であればこそ、その役割を活かして、今、教育の分野から大きな評価と期待を受け、これに携わることが求められているのである。司法書士は、自らの職責の一つとして、あるべき法教育を追究し、教育関係者に提案し、実現を支援し協力していく責任がある。
しかし、その責任は、個々の司法書士会員の責任、単位司法書士会の責任へと矮小化することなく、司法書士制度全体への期待に応える問題として、日本司法書士会連合会こそが果たすべきものであることを、ここで確認したい。 - 日本司法書士会連合会は、組織を挙げて、法教育の実践と推進のために活動する会員と単位司法書士会の人的・物的支援に取り組むべきである。
具体的には、法教育の視点をもって法律教室の講師活動ができる司法書士の養成・確保のための研修プログラムの策定、講師派遣にあたっての単位司法書士会への人的・物的支援、法テラスとの連携、法教育・消費者教育関係団体その他の官民の教育関係者等各方面とのネットワーク構築のための働きかけ、法教育に対する意見表明その他の広報活動等、あらゆる角度から、法教育の実践と推進を行なう必要がある。
よって、議案の趣旨記載のとおりの総会決議を求める。