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意見書等
2022年(令和04年)03月17日
法務省民事局商事課 御中
「商業登記規則等の一部を改正する省令案」に対する意見
日本司法書士会連合会
会長 小澤 吉徳
当連合会は、標記について、次のとおり意見を申し述べる。
1.商業登記規則の一部改正
(1)登記事項証明書における会社代表者等の住所の非表示
【意見】
登記事項証明書に、DV等の犯罪被害を受けるおそれがあるとの申出があった場合に、例外的に住所を表示しないことで一定の権利擁護を図りつつ、原則として代表者の住所が記載されることを維持することに賛成する。
【理由】
代表者の住所は、裁判実務上において普通裁判籍の決定及び送達の場面において重要な役割を果たしているほか、特に中小企業の取引の実情に鑑みると、会社の代表者が誰であるかを特定するための情報として、取引の相手方等によっては重要な情報であり、開示の必要性は非常に高いものがあると考えられる。
一方で、個人情報保護の社会的要請はますます高まっており、そのバランスをどのようにとるのかは非常に難しい問題である。
そのうえで、DV等の犯罪被害を受けるおそれがある場合に、当該代表者等から住所非表示措置の申出があったときは、当該者の住所を秘匿する必要性が高いと考えられ、代表者等の住所を非表示にすることは合理的である。〇 その他
・登記の申請と同時ではない住所非表示措置の申出は、オンラインでの申出をすることができない規律となっているところ(規則第101条第1項第1号)、利便性の観点やデジタル社会の視点からはオンラインにより申出をすることができるようにすべきである。
・改正案第31条の2第1項について
申出の対象者が「登記簿に記録されている者」とされている。「登記簿に記録されている」者とは、既に退任して抹消された者を含まず、現に登記記録上、効力を有する者として記録されている者と考えられるが、既に退任した者についても住所を秘匿したい要請があることから退任者についても同様に申出を認めるべきである。
・改正案第31条の2第4項第3号の文言について
「代理人によって第2項の申出書又は前項の登記の申請書を登記所に提出するときは、当該代理人の権限を証する書面」との文言が予定されている。代理人の権限を証する書面を同じく提出する局面として、商業登記法第18条中、「代理人によって登記を申請するには、申請書にその権限を証する書面を添付しなければならない」とされている。
それぞれ書類の添付を要求する同趣旨のもと、平仄を合わせることが望ましいと考える。具体的に、次の文言の検討の余地があると考える。
「代理人によって申出(前項の登記の申請と同時にする申出も含む。)をするときは、当該代理人の権限を証する書面」
(※なお、役員等の氏の記録に関する申出等に関する第81条の2第4項第2号も同様)
・改正案第31条の2第7項第2号について
登記官が住所非表示の措置を終了させることが「相当であると認めるとき」とはどのような場合をいうのか。当然の住所非表示の終了に対しては、申出の際に被害者等の出頭を求めることができるのと同様に(改正案31条の2第6項)、被害者等から事前の意見聴取の機会を得ることが必要な局面も考えられるため、終了事由については、より明確な規律が必要となると考えられる。
・改正案第31条の2第8項について
第31条の2第8項において、第2項第4号並びに第4項第1号及び第3号を除くとされているため、住所非表示の措置を終了させる場合には、代理人による申出は不可となっている。円滑な手続の実現のために代理人による申出を認めるべきである。
(2)その他の改正(旧氏の範囲の拡大等)
【意見】
改正案に賛成する。また、取締役等の氏又は名の変更の登記や、代表取締役等の住所変更の登記を申請する場合においても、その変更を証する書面を添付しなければならないものとすべきである。
【理由】
氏を変更する場合としては、婚姻以外にも、離婚、養子縁組又は離縁等によることが考えられる。したがって、登記できる旧氏の選択肢を拡大することは、旧氏を使用しながら活動する者の要請にかなうものと考えられる。
また、申出の時期を登記の申請時に限定しないことで、適宜な時期での申出が可能となり、より現状に即した公示が可能になるものと考える。
なお、改正案の旧氏の申出の際には、記録すべき旧氏を証する書面を添付しなければならないとされている(第81条の2第4項第1号)ことに対し、取締役等の氏又は名の変更の場合、変更を証する書面の添付を要しないものとして取り扱われている。しかし、今般の改正の趣旨に鑑みると、これらの変更の登記を申請する場合においても、変更を証する書面を添付しなければならないものとするのが妥当であると考える。そうでなければ、虚無人名義での登記や、居住していない場所を住所として登記することができる等、今般の改正の趣旨が没却されることになるからである。
〇 その他
登記実務では、取締役等が外国人である場合においては、通称(住民基本台帳法施行令第30条の16第1項)を登記記録に記録することが認められている。通称の取扱いに変更が生じた場合に関しても氏を変更した場合と同様の取扱いをすべきである。
2.電気通信回線による登記情報の提供に関する法律施行規則の一部改正
【意見】
条件付で賛成する。条件として、司法書士及び弁護士については、システム上、住所の記載がされた登記情報を入手できる手当について今後も引き続き検討すべきである。
【理由】
登記情報提供サービスについては、制度の導入時よりもインターネットが発達し、多くの利用者が閲覧することが可能となってきており、個人情報の保護の観点は相対的に上昇している。
一方で、代表者の住所は、前述のとおり、裁判実務上において普通裁判籍の決定及び送達の場面において重要な役割を果たしており、開示の必要性は高いものがある。
また、裁判上の代理人となること又は裁判所に提出する書類の作成を行うことができる司法書士及び弁護士について、登記情報提供サービスにおいて早期に住所を取得するニーズは高く、登記事項証明書の取得では迅速性に欠けることは明白である。
そのため、司法書士、弁護士等の専門家に対しては、登記情報においても会社代表者等の住所の提供を受けられるようなシステム上の手当を検討する等、今後も継続的に課題として挙げていく必要がある。
また、非表示の方法として、諸外国においては、代表者の住所を原則として登記事項証明書の記載事項としない法制を採っている場合においても、外国に居住する代表者についてはその住所を記載するものとしたり、独立行政最小区画については記載するものとしたりしている場合もある。そのような例を参考にすべきである。
3.会社以外の法人の登記についての取扱い
【意見】
登記情報提供サービスにおける合名会社及び合資会社の無限責任社員については、会社の債権者に直接責任を負う立場であり、住所が記載された登記情報提供サービスの交付を請求することができるようにする必要性が相対的に高いと考えられる。
そのため、登記情報提供サービスにおいて、自然人一律に住所を非表示にすることは適切ではないと考える。