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意見書等
2007年(平成19年)02月16日
「任意後見制度の改善提言と司法書士の任意後見執務に対する提案」
日本司法書士会連合会
社団法人成年後見センター・リーガルサポート・はじめに
任意後見制度が新たに創設されて7年近くが経過し、自己決定の尊重という理念に最も適った制度であるとされるこの制度を実際に利用する人の数も年々増加し 始めている。最高裁判所事務総局家庭局の統計によれば、2006年3月末日までの任意後見契約の登記件数の累計は約15000件となった。任意後見制度の 導入に際しては否定的な意見も多かったわけであるが、少子超高齢社会を迎え、この制度に対する国民のニーズは確実に増加する傾向にあるものと考えられる。
しかし、一方で、わが国の市民の間ではまだ契約に不慣れな実態もあり、また利用者が70代、80代の高齢者であることも多く、任意後見制度を利用する上で の様々な問題が生じている。また、この制度を他の目的のために悪用する事例や任意代理人が権限を濫用する事例も出始めてきている。
私たち司法書士は、この制度の普及と利用を進める活動を通して、数多くの任意後見契約に関わり、また受任者として任意後見契約を締結し、任意後見事務を遂 行してきた。この制度を改善していくための提言を行うことは制度を担う専門職としての社会的責務であり、改善提言を検討することは、同時に自らの執務を総 括する作業を伴うものとなる。
そこで、日本司法書士会連合会(以下、「日司連」という。)と社団法人成年後見センター・リーガルサポート(以下、「リーガルサポート」という。)は、共 同して、制度利用の実態を把握するために、全国の公証人、金融機関、司法書士に対するアンケート調査を実施した。アンケート調査結果を踏まえ、議論を積み 重ねた上で、日司連とリーガルサポートは、本改善提言を共同で発表するものである。
私たちは、任意後見制度が、
(1) 「本人の自己決定の尊重」という理念が現実に活かされ、かつ本人の権利擁護に資する制度となっているか
(2) 任意後見人(任意後見受任者)の執務姿勢はどうあるべきか
(3) 誰もが利用しやすい制度になっているか
という視点から、検討を加え、任意後見業務に携わる実践者の立場からの意見を取りまとめた。任意後見人(任意後見受任者)の執務姿勢はどうあるべきかとい う課題を検討する中で、司法書士の執務について反省すべき点が議論され、今後の任意後見執務のあり方についての提案を行うことになった。これは、全国の司 法書士への呼びかけではあるが、任意後見契約に取り組まれている方々の参考になれば幸いであると考え、広く社会に発表することになった。
ここに、任意後見制度改善の提言をするとともに、私たち司法書士の任意後見執務に対する提案を行う。※ なお、本提言において、「本人」とは、任意後見契約の委任者を、「任意後見契約法」とは、任意後見契約に関する法律を、「任意代理契約」「任意代理人」とは、財産管理・身上監護事務を委任する民法上の委任契約及びその受任者をいうものとする。
・制度改善提言項目と司法書士執務への提案項目
<制度改善項目>第1 任意後見契約締結時における公証人の役割
第2 任意代理契約濫用防止について
1 任意後見受任者の義務規定の明示
2 本人の意思能力喪失を任意代理契約の代理権消滅事由とする規定の創設
第3 任意後見監督人選任手続における医師の診断書について
第4 任意後見事務遂行上の問題点
1 金融機関との取引
2 不動産登記手続
3 死亡届
4 本人死亡後の事務委任と費用
第5 任意後見監督人の業務における問題
1 親族任意後見人の場合における家庭裁判所の役割
2 任意後見監督人の報酬
第6 契約終了時の任意後見監督人の法定後見申立権
第7 在日外国人の任意後見契約における問題
第8 国や地方公共団体の役割
1 制度広報
2 公的助成制度<司法書士執務への提案項目>
第1 類型別任意後見契約の選択
1 将来型任意後見契約
2 移行型任意後見契約
3 即効型任意後見契約
第2 契約を締結する場合の留意点
1 わかりやすく、本人の状況を反映した任意後見契約書にするための工夫
2 契約内容の十分な説明と重要事項の説明
3 本人の希望により本人の真の支援者を交えた契約内容の検討
4 本人の意思を把握する相談姿勢
5 任意後見監督人の同意を要する行為の検討
6 法定代理人等本人以外の者を委任者とする任意後見契約
7 医療行為における同意についてⅠ 制度改善提言とその理由
第1 任意後見契約締結時の公証人の役割
【提言】
任意後見契約の締結時には、本人の意思能力や契約締結の意思を直接確認するため、法律上、公証人に契約当事者との面接を義務付けるべきであり、嘱託拒絶権限を具体的に明示すべきである。
【理由】
(1) 日本公証人連合会の全面的な協力を得て行った、全国512名の公証人に対するアンケート結果によれば(375名から回答・回答率73%)、契約締結時 に、「委任者との面接が困難だと告げられた上で公正証書の作成を依頼された」公証人が3%ある。そのうち、「受託を断る」という回答は80%であり、公証 人のほとんどが面接を前提としている。しかし、少数ではあるが、「断れない」「やむをえない場合には嘱託を受ける」というものもあり、その理由も、「本人 が自宅で療養しているため公証役場に来ることができない」「弁護士や司法書士に委任しているため、わざわざ公証役場に行きたくないと委任者本人が言ってい る。」というものである。
ところで、本人の死後の問題についての単独行為である遺言は、15歳以上の意思能力のある自然人に認められているが、遺言公正証書の作成においては、遺言者(本人)が遺言の趣旨を公証人に口授することが義務付けられている(民法969条)。
一方、公正証書で作成することを義務付けている任意後見契約書においては、平成13年3月3日付民事局長通達により本人との面接を原則としているものの、 公証人に当事者との面接を法律上義務付けていない。任意後見契約は、本人の生存中の財産管理や身上監護等生活全般について受任者に委任するという、判断能 力がおとろえた後に発効する契約であり、本人の権利擁護の制度である。身上監護のみを委任する契約や、年金収入等による日常の財産管理のみを代理する契約 もあるが、身寄りのない人等のとの契約においては、広汎な代理権を付与するものが多く、多岐にわたる委任条項につき委任者の理解を必要とする。
本人の自己決定を最大限尊重し、契約を基礎とする任意後見制度において、委任者に契約締結に必要な意思能力があるのか、契約締結に積極的な意思があるのか ということは基本的な問題である。直接本人の意思を確認しないで任意後見契約書が作成されるべきではなく、法律上、公証人に当事者との面接義務を課すべき である。
(2) 同アンケートで、契約締結時に委任者の意思能力に問題があると感じたことが「ある」と答えた公証人は37%にのぼる。問題があ ると感じた場合、公証人は、意思能力の確認のため医師の診断書を請求する等の対応をし、また任意後見契約締結能力がないと判断した場合は、法定後見制度の 利用を促す等の努力がなされている。
また、「契約内容に問題がある、ないしは不適正であると思ったことがあるか」という問いに対し、9%が「ある」と答えている。その場合、ほとんどの公証人 が、当事者に契約内容の修正を求め、応じなかった場合は受託を断っているが、中にはやむを得ず受託したというものもある。
現行法では、問題があると感じた契約につき、公証人は、注意・教示・勧告をすることはできても(公証人法施行規則13条)、資料収集権限もなく、公証人に 対して誰も証言義務・鑑定義務・文書提出義務・求説明義務がない。その一方で、文書作成義務が課せられているため、明らかに不適法な場合や、無効、能力制 限による取消事由がない限り嘱託拒絶の「正当事由」にはあたらないと解されている(日本公証人連合会法規委員会「任意後見契約に関する実務上の問題」)。 そのため、アンケート結果からも、契約内容に問題があると考えて、説明や勧告をしても応じない場合は嘱託義務があるため拒絶できないという公証人のジレン マが伺われる。
そこで、任意後見契約については、a.本人の契約締結能力が疑わしい場合 b.契約内容が本人にとって一方的に不利な内容である場合等、公証人が嘱託拒絶できる場合を具体的に明示すべきである。第2 任意代理契約濫用防止について
【問題の所在】
近時、任意後見契約とともに広範な代理権を付与された任意代理契約(移行型)において、本人の判断能力が低下した後も合理的な理由もなく任意後見監督人の 選任申立てがなされず、当該任意代理契約で財産管理・身上監護事務を継続し、本人や第三者の監視の目が届かない状態を意図的に作り出しているケースが潜行 していることが問題となっており、財産被害の発生や適切な身上監護がなされていない濫用行為が存在するのではないかと危惧されている。
このことは、本人が任意後見制度を信頼して制度利用を決断したにも関わらず、任意後見受任者の意思により任意後見制度の利用を阻んでいることになり、成年後見制度全体の信頼性を損なうものである。
そこで、この制度上の問題に関する解決策について、任意後見契約法において改正すべき点のうち予算措置の必要のないものを以下に提言し、予算措置や国・地方公共団体の機能を強化する必要があるものについては、残された課題として「おわりに」において触れることとする。1.任意後見受任者の義務規定の明示
【提言】
任意後見契約法において、任意後見受任者は本人の生活状況や判断能力の低下等の健康状態を見守る義務を負う旨を明示するとともに、本人の判断能力が低下し た場合においては、任意後見受任者に対し、任意後見監督人を選任することにつき、本人が同意しない場合を除き任意後見監督人選任の申立義務のあることを規 定すべきである。
【理由】
【問題の所在】において前述したとおり、現在、特に移行型任意後見契約において本人の判断能力低下後も任意代理契約での財産管理を継続し、結果として、第三者による監督がなされず、不適切な管理がなされている可能性がある事例があると言われている。
金融機関に対する「任意後見・任意代理(代理人による取引)契約に関するアンケート」によると、任意代理契約に基づく取引を認める金融機関に対し、「金融 機関等による顧客等の本人確認等及び預金口座等の不正な利用の防止に関する法律」(以下「本人確認法」という。)で必要とされている場合以外にも本人確認 をするか、との質問に対し、「代理人届出提出時に本人確認を行い、その後の本人確認を必要とされている取引以外の場合においては不要」との回答があった。 この質問に対して「本人確認法に規定されている方法により本人確認を行う」というのが50件と一番多い回答数であったが、この場合においても取引当初にお いて確認するのみで、以後本人の意思の確認等をしていないものと推測され、一旦本人確認された場合は以後の本人の判断能力が低下しても金融機関においては チェックされない取扱いである。
しかし、例えこのような不適切な事例が明らかになっても、その受任者の任意後見契約法上の義務があいまいではその責任を問うことに困難さを伴うことになる。
現行法上、任意後見契約法4条において、任意後見受任者のほか、本人、配偶者、四親等内の親族を任意後見監督人選任の申立権者として規定しているが、任意後見受任者に申立義務が課されているとまでは解すことはできない。
通常、契約上においてその申立の履行義務を規定することが多いが、法律上規定されていないことから、契約書上に規定されなければ当該申立義務の有無が不明確である。
また、現行法において、任意後見受任者においては契約締結から任意後見監督人選任の審判まで何ら法律上の義務が規定されておらず、任意後見受任者はどのよ うな権利義務を有しているのか不明確であるが、当該申立てを行う前提として、任意後見受任者は本人の生活状況や判断能力を中心とする健康状態を把握してい る必要があり、定期的に本人と面談するほか、施設の職員から本人の状態に変化があった場合直ちに連絡をもらう用意をしておくなど、本人の身上に配慮しなが ら見守る必要がある。
さて、任意後見監督人選任の審判において、原則として、本人が当該申立てを行うか、もしくは本人が当該申立てをすることに同意していることが要件となって いるが、任意後見受任者に対し一律当該申立義務を課すとなると、任意後見受任者は軽度の認知症が発症している本人がもう少し自ら財産管理を行いたいという 自己決定を無視してまで当該申立てをせざるを得ないこととなり、その場合本人と任意後見受任者との信頼関係に問題が生ずる。
そこで、任意後見受任者に対し、任意後見契約締結時から本人を見守る義務を課すとともに、当該申立てをすることに本人が同意しない場合を除き、任意後見監督人選任の申立義務を課すべきである。2.本人の意思能力喪失を任意代理契約の代理権消滅事由とする規定の創設
【提言】
任意後見契約法において、任意後見契約が登記されている場合、任意代理契約における死後の事務委任を除き、「本人の意思能力喪失」を任意代理契約に基づく代理権の消滅事由とする旨の規定を設けるべきである。
【理由】
わが国においては、他の大陸法系諸国と同様に、民法111条(代理権の消滅事由)および同653条(委任の終了事由)においては、本人の意思能力の喪失は 消滅事由・終了事由としてそれぞれ規定されていない。そして、解釈法上、委任者・代理権を付与した本人の意思能力が喪失しても委任は終了せず、代理権も消 滅しないというのが通説とされている。
しかし、他の大陸法系諸国と違い、わが国では2000年に任意後見制度を導入した経緯があり、任意後見契約を締結した本人においては、自らの判断能力の低 下という事態が将来生じた際には、任意後見監督人を選任して、以後の財産管理および身上監護に関する事務は任意代理契約ではなく、任意後見契約で履行され るべきものとの意思が働いているものと考えられ、一般的に任意代理契約による財産管理等の事務を継続することは想定していないと考えられる。
にもかかわらず、本人の判断能力が低下した後においても任意後見監督人選任の申立てをせず、任意代理契約における事務を継続することは、任意後見制度およ び一般的移行型任意後見契約上の趣旨に合致せず、少なくとも移行型任意後見契約を締結した場合においては、本人の意思能力喪失については、任意後見契約に おいて事務を行い、任意代理契約で授権された代理権は消滅すると解釈するのが相当であることから、任意代理人のこのような濫用を防止するため、立法的措置 を早急に講ずるべきである。
また、死後の事務委任については、任意後見契約における代理権には含まれず、この任意代理契約により付与された代理権は消滅させない必要がある。第3 任意後見監督人選任手続における医師の診断書について
【提言】
任意後見監督人選任申立の添付書類は、医師の診断書に限らず、精神保健福祉士、保健師、臨床心理士、ソーシャルワーカー、看護師等の診断書に準ずる資料をもって代えることができる取扱いにすべきである。
【理由】
任意後見監督人を選任する要件として、(1) 任意後見契約が登記されていること、(2) 精神上の障害により事理弁識能力が不十分な状況にあること、(3) 所定の請求権者の請求があることとを要件としている。(任意後見契約法4条1項)
(2) の判定をするために、本人の精神の状況に関する医師の診断の結果その他の適当な者の意見を聴かなければならないとされている(特別家事審判規則3条の2) が、鑑定を必要的としていない。それは、任意後見監督人の選任には、原則として本人の同意があることが要件となっていること(同法4条3項)と、手続を利 用しやすくするためと言われている。
本人は、預貯金の払戻しができなくなったり、入所契約等の内容を理解する自信が無くなり、身近にいる保健師やソーシャルワーカー等にはそのことを打ち明 け、支援(契約の発効)を望んでいるのに、そのためには、医師の診断書が必要だと説明すると途端に受診を嫌がる事例が多い。
任意後見監督人選任は、法定後見のように3類型に当てはめる必要はなく、本人が精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分な状況にあることを判定すれば充分であるので、医師の診断書に限定せず、医師の診断書に準ずる書面でも可能だとする取り扱いにするべきである。
また、監督人を選任するには、本人の陳述および任意後見監督人となるべき者の意見を聴かなければならないとされている(同規則3条の3)ため、医師の診断書に準ずる書面により、契約の発効がなされたとしても、本人の不利益にはならないものと思われる。
本人は、加齢による判断能力の低下による場合に備えて任意後見契約を締結しているのに、医師の診断書を入手できないために契約発効が遅れ、本人の利益が守れないことになってはならない。
なお、診断書に準ずる書面の発行者は、一定の資格と能力担保措置を講じることを前提とすることの考慮は必要と思われる。第4 任意後見事務遂行上の問題点
1 金融機関との取引
(1) 就任時の届出
【提言】
任意後見人が金融機関に「成年後見制度に関する届出書」を提出する場合、署名押印は任意後見人のみとし、届出の添付書類は登記事項証明書のみで任意後見人 の印鑑証明書の提出は不要とすべきである。また、任意後見監督人の署名捺印、さらに任意後見監督人の印鑑証明書の提出も不要とすべきである。
【理由】
任意後見人が金融機関に「成年後見制度に関する届出書」を提出する場合、本人の署名を要求されることがあるが、本人が補助類型相当の判断能力のレベルであ れば格別、保佐さらに後見類型相当のレベルの場合もあり、本人は署名の意味さえ理解できないことがあり実際には意味がないといえよう。
また、任意後見・任意代理に関する金融機関へのアンケートによると、43%の金融機関で届出書に本人の実印押印を、41%の金融機関で本人の印鑑証明書を 必要としている。しかし、任意後見制度は、本人の行為を制限するものではなく、任意後見人の行為は本人の代わりに任意後見監督人の監督を受けているもので あるため、本人の実印の押印や印鑑証明書の提出を要求すべきではない。
さらに、届出書を提出する際に、任意後見人個人の実印の押印や印鑑証明書の添付を要求されるが、任意後見人の本人確認資料としては、他の資料で代替できるものと考える。
ところで、上記アンケートによると、70%の金融機関で任意後見監督人の署名捺印及び印鑑証明書が必要との回答がなされている。しかし、成年後見監督人が ついた成年後見人の場合と異なり、任意後見人には代理権目録に記載のある代理権に関しては何らの制限もないのであるから、金融機関の対応は、まったく根拠 のないことである。
ちなみに、全国銀行協会の「成年後見制度に関する届出書(案)」の備考欄には、「代理人はあくまで任意後見人であるため、任意後見人の届出をもらう。」旨 記載されている。なお、同書では、これに続いて『なお、一定の行為の代理について任意後見監督人の同意を要するとされている場合もあるが、この場合にはそ の旨を「その他」欄に記載してもらい、任意後見監督人等の届出を別途もらう』旨記載されているが、この場合は、任意後見監督人の署名捺印及び印鑑証明書が 必要となるであろう。(2) 任意後見人の届出と本人自身による取引
【提言】
本人と任意後見人とが「本人が取引できる口座の指定」を届出た場合は、金融機関はこれに応じ、さらに本人に対してキャッシュカードの発行も認めるべきである。
【理由】
任意後見・任意代理に関する金融機関へのアンケートによると、一旦代理人届が提出された後は、62%の金融機関が本人とは取引をすることはできないとし、 61%の金融機関が本人用のキャッシュカードの発行は認めないとしている。しかし、任意後見が発効しても、法律上本人は何らその能力が制限されることはな いし、自己決定の尊重・残存能力の活用という法の理念を考えると、これらの取扱いは改めるべきである。
なお、特に本人の判断能力が補助レベルの場合は、銀行取引ができなくなることに対して抵抗感を持つ本人も少なくない、というのが実情である。2 不動産登記手続
【提言】
本人の不動産を処分する場合における不動産登記申請手続上の添付書類は、本人が委任状を提出する場合は、本人の印鑑証明書とすべきであるが、任意後見人が委任状を提出する場合は、任意後見人の印鑑証明書とすべきである。
【理由】
現行の不動産登記法の下では、任意代理人の印鑑に関する証明書添付の規定がなく(不動産登記令16条、18条)、また、任意後見の場合は、契約締結の時点 で本人に契約を締結するだけの判断能力が存し、印鑑登録をすることが可能である以上、本人の印鑑証明書に代えて任意後見人の印鑑証明書を添付するという取 扱いをしなくても不都合はないということから、本人の印鑑証明書を添付するものと解されている。しかし、実際の不動産登記の申請においては、本人が委任状 を提出する場合と任意後見人が委任状を提出する場合に分けて考える必要がある。任意後見における本人の判断能力のレベルは、補助相当から後見相当までと幅 広く、仮に補助レベルであれば、本人の委任状・印鑑証明書での処理も可能であるが、保佐・後見レベルの場合では、委任状や印鑑証明書の意味さえも理解でき ないことも多い。
そこで、本人が委任状を提出する場合は、本人の印鑑証明書とすべきであるが、任意後見人が委任状を提出する場合は、任意後見人の印鑑証明書とすべきである。3 死亡届
【提言】
戸籍法を改正して、死亡届権者に任意後見人を加えるべきである。
【理由】
任意後見においては、本人が在宅生活を送っていることが多いが、この本人が自宅で死亡すると、親族がいないか疎遠な場合に死亡届の届出人がいないことにな る。首長による職権記載もあるが、簡単ではない。そもそも、死亡の事実は、死亡診断書や死体検案書により客観的に証明される訳であるから、死亡届の届出人 が誰であるか自体、あまり意味のあることとは考えられない。
今般、死亡届権者に成年後見人を加える方向で戸籍法の改正が進んでいるが、任意後見人も加えるべきである。4 本人死亡後の事務委任と費用
【提言】
本人との「死後事務の委任契約」における費用について、公益法人も信託の受託者となることができるように、信託業法等の改正をすべきである。
【理由】
任意後見契約を締結する場合、本人が死亡した際の(1) 葬儀、埋葬、供養に関する手続きとその費用の支払い、(2) 家財道具、身の回りの生活用品の処分等を依頼されることが多い。かかる「死後の事務」を行うことができるようにするため、実務では、任意後見契約と共に本 人が死亡した場合の「死後事務の委任契約」を締結してこれに対応している。また、本人と受任者が定期的に連絡を取り合うことによって、将来の任意後見契約 発効に備える「見守り契約」を締結することも多い。
ところで、かかる見守り契約と「死後事務の委任契約」を締結した場合、見守り事務段階で本人が死亡すると、財産管理はいまだ始まっていないので、「死後の 事務」を行うための財産的裏づけがなく、例えば葬儀費用の支払い等も行うことができない。そこで、契約当初から、葬儀費用等を預託金として預かり、この問 題に対応すべく備えることが多い。
しかし、預託金を預かる方法は、第1に受任者が万一死亡した場合、本人の財産が受任者の相続財産に混在してしまう危険があり、第2に監督機関がない以上、預託が長期間にわたることから不正が発生する危険性もある。ここに、信託の必要性があると考えられるのである。
先般、信託業法の改正により、信託銀行のほか株式会社にも信託業務が認められたが、いずれにしても、「死後の事務」に係る預託金は、多くて数百万円である から、信託銀行や株式会社が業務として取り扱うとは考えにくい。そこで、公益法人にもかかる信託が可能となるように信託業法等の改正をすべきである。第5 任意後見監督人の業務における問題
1 親族任意後見人の場合における家庭裁判所の役割
【提言】
裁判所は、任意後見監督人候補者と任意後見受任者との面談を実施させるような運用を、任意後見監督人選任手続きの中に組み入れるべきである。
【理由】
最高裁判所事務総局家庭局が毎年公表している「成年後見関係事件の概況」には、任意後見監督人選任の件数は記載されているが、任意後見監督人の職業等は示 されていない。実務では、任意後見監督人の職責の重要性に鑑み、任意後見人と任意後見監督人の組合せとして、任意後見人が本人の親族・知人の場合は、弁護 士・司法書士・社会福祉士等の専門職が選任されているのではないかと考えられる。
親族が任意後見受任者となる場合であっても、契約締結に弁護士、司法書士等の専門家が関与しているときは、今後の後見事務や監督人に対する報告についての 遵守事項等をレクチャーしていると思われるが、専門家が関与しないで契約が行なわれた場合は、任意後見監督人の監督を受けることも知らない場合もある。
親族任意後見人と任意後見監督人との関係をスムーズに進行するには、任意後見人が任意後見制度や任意後見事務を知ることが不可欠である。その方策として、 裁判所が、任意後見人に詳細な任意後見事務のマニュアルを交付したり、契約締結時に同様なものを公証人が交付し、事前に知識を習得してもらうとの提案もな されているが、書面を交付しただけでは十分ではない。
そこで、裁判所は、任意後見監督人選任申立事件の手続の一環として、任意後見監督人候補者と任意後見受任者とを面談させ、当該任意後見事務についての事前 指導(処理指針の指導、財産管理の指導、財産目録作成の指導、定期報告書作成指導等)を実施させ、その中で、事後報告ではなく、出来る限り事前の相談が望 ましいことの説明をさせるべきである。更に、不正行為があった場合の解任可能性等についての説明を実施させることを、任意後見監督人選任手続きの中に組み 入れる運用をするべきである。2.任意後見監督人の報酬
(1) 報酬基準の明確化と報酬請求権の制定
【提言】
任意後見監督人に報酬請求権を与える法改正を行い、報酬付与決定審判につき、任意後見監督人に即時抗告権を与えるべきである。
また、裁判所は、報酬算定基準を可能な限り明確化して公表すべきである。
【理由】
任意後見監督人の報酬については、成年後見人の規定が準用(法7条4項、民法862条)されており、本人の財産の中から相当な報酬を受けることができるとあるが、当然に報酬請求権があるとはされていない。
実務では、専門職が任意後見監督人となった場合、報酬付与請求がなされると、報酬額の決定はなされているが、その額については、何を基準として決定したのか全く理解できない額であるとの報告がなされている。
監督人の報酬額の算定基準が明確となっていないので、委任者は、費用の予測が出来ないので契約締結自体を躊躇したり、任意後見監督人選任請求を躊躇する場合もある。
任意後見監督人の監督責任は直接監督である上に、財産管理と身上監護の双方の監督に及んでいる。このように、任意後見監督人の重責を負っている第三者任意 後見監督人の安定した供給が出来るようにするためには、裁判所は、出来る限り報酬基準(算定基準)を明確にすべきである。(2) 専門職任意後見監督人が報酬を受領する場合の問題点
【提言】
裁判所は、報酬付与審判書を任意後見監督人だけではなく、任意後見人にも通知するべきである。また、任意後見監督人の報酬の確実なる受領方法を確立するべきである。
【理由】
家庭裁判所が後見監督人に対する報酬に関して、その基準が明確にされていないため、報酬額に客観性が乏しく、任意後見人との間で報酬額についてトラブルに なることもある。 任意後見人が報酬額や監督のあり方に不満をもっていた場合に、支払履行者である任意後見人は任意後見監督人に対して、スムーズに報 酬額を支払わないことがある。
そのようなことにならないように、裁判所は任意後見人に対しても、報酬付与審判書に記載された報酬額を監督人に支払うように、振込先等を記載した指示書を添付して報酬付与審判書を通知するべきである。第6 契約終了時の任意後見監督人の法定後見申立権
【提言】
任意後見人の死亡・破産により任意後見契約が終了してしまう場合、本人保護の為に契約終了時の任意後見監督人に法定後見申立権を付与すべきである。
【理由】
任意後見契約が発効した場合、契約締結時の契約内容に応じ、任意後見人は任意後見監督人の監督のもと、本人のために執務をすることとなるが、任意後見人が 死亡もしくは破産した場合、任意後見契約は終了する。任意後見契約法10条1項及び2項に、任意後見から法定後見に移行する場合の規定があるが、任意後見 契約が継続していることが前提であり、任意後見人が欠けて任意後見契約が終了してしまう場合に任意後見監督人に法定後見申立権を認めていることにはならな い。このことは、任意後見契約が本人の判断能力低下時点での自己決定権の尊重を基本とし、本人を保護する必要がある契約であることを考慮するにその本旨に 反するものと言える。何故ならば、任意後見契約が終了してしまった場合、新たに法定後見を申立てなければならないが、独居高齢者が任意後見契約を締結した 場合、法定後見申立権者が見当たらないケースも多いこと、また、任意後見契約終了後も本人を見守る必要があるにも関わらず、場合によっては長期放置される 可能性があることが考えられ、何時遭遇するかわからない任意後見人の不慮の事故に対する法的な配慮がなされていないからである。
そこで、任意後見人の死亡・破産によって任意後見契約が終了した場合、民法第7条の申立権者として契約終了時の任意後見監督人に法定後見申立権を付与すべ きである。なお、任意後見人の解任の場合は、任意後見監督人から解任の申立がなされてから解任の審判がおりるまで契約は終了しないので、任意後見監督人が 任意後見契約法10条2項によって法定後見開始の審判申立が可能であり問題がない。第7 在日外国人の任意後見契約における問題
【提言】
在日韓国・朝鮮人等、日本における永住者・特別永住者等の外国人の任意後見契約については、その準拠法として明確に日本法を選択できるよう立法措置をとるべきである。
【理由】
現在、日本に住む在日韓国・朝鮮人だけでも60万人を超えていると言われるが、日本における多くの外国人が日本国籍を有しないという理由で任意後見制度の利用ができないのではないかという問題がある。
昨年まで施行されていた国際私法を規定する「法例」の解釈には、以下のとおり、相対立する考え方がある。当事者の意思に従う旨を定める第7条及び法律行為 の効力を定める法律による旨定める第8条によって、外国人であっても日本の法律たる任意後見契約に関する法律が適用されるという適用肯定説と、任意後見契 約は契約といえども後見に関する契約であり、被後見人の本国法によるべきであるという外国人への任意後見に関する法律への適用否定説である。したがって、 外国人が任意後見契約を利用できるかどうかについては疑義があった。そして、今年から施行された「法の適用に関する通則法」は、国内の学説上の議論が尽く されていないので時期尚早であるとの理由から、任意後見制度の準拠法に関する特則規定を設けていない。したがって、新法施行後も、在日外国人の任意後見制 度の利用ができるかどうかは解釈に委ねられており、在日外国人が任意後見制度を利用できるかどうかは明らかではない。
しかし、任意後見制度は、世界中で広く採用されている制度ではないため、韓国のように任意後見制度を有しない国が多いのが現状である。在日外国人も高齢化 が進み、一人暮らしの高齢者が増えてきている現状を考えると、今後益々任意後見制度を利用しなければならない人が顕在化してくると思われ、特に数多くいる であろう日本で生まれ育った在日韓国・朝鮮人の高齢者が任意後見制度を利用できないとすれば問題である。
よって、在日韓国・朝鮮人等、日本における永住者・特別永住者等の外国人の任意後見契約については、その準拠法として明確に日本法を選択できるよう立法措置を早急にとることが望まれる。第8 国や地方公共団体の役割
1 制度広報
【提言】
国・地方公共団体は、任意後見制度の正しい理解と利用促進のための制度広報を積極的に行うべきである。
【理由】
任意後見制度は、自己決定の尊重の理念を反映するものとして、これからの超高齢社会において、さらに需要増が見込まれている。
任意後見契約は、利用者が任意後見受任者に対して、判断能力が不十分な状況における療養看護および財産管理に関する事務について代理権を付与する委任契約 で、任意後見監督人が選任された時から契約の効力が生じるが、移行型任意後見契約においては、利用者の判断能力の低下後も任意代理契約での財産管理を継続 し、第三者による監督がなされず、結果として不適切な運用がなされている可能性がある事例があると指摘されている。
国・地方公共団体は、上記の指摘に基づき、任意後見制度の運用如何によっては濫用の危険性があることを踏まえ、その利用促進のための制度広報に際しては、利用者の権利擁護の観点から適正な運用を喚起するように努めるべきである。2 公的助成制度
【提言】
国・地方公共団体は、利用者の自己決定の尊重の観点から、低所得者層であっても安心して任意後見制度が利用できるよう、公的助成制度の導入等経済的支援体制の確立を図るべきである。
【理由】
超高齢社会を迎えた今、利用者の自己決定の尊重という理念を最も具現化した制度として、任意後見制度はもっと活用されるべきである。
しかしながら、任意後見人を専門職に依頼した場合、契約締結の費用、任意後見人・任意後見監督人の報酬等の費用が嵩むため、任意後見制度は、低所得者層にとっては利用しづらく、「富裕層を対象とした制度」であるとの批判がなされている。
法定後見制度の利用においては、限定的ではあるが市町村長による申立として、行政の援助が受けられる制度が法制化されているが、その活用はまだまだ進んでいない。ましてや、契約を前提とする任意後見制度にまで政策が及んでいない現状がある。
少なくとも中長期的な視点からは、低所得者層が経済的理由のみによって、任意後見制度の利用から阻害されてしまうことは決して許されるものではない。
低所得者層への経済的支援体制の確立は、法定後見利用についての利用支援事業の確立が優先されるべきとの意見もあるが、自己決定の尊重の理念から任意後見 制度の利用は促進されるべきであり、両制度ともに経済的支援体制を確立することが共通の重要課題でるため、国・地方公共団体は対策を講ずるべきである。Ⅱ 司法書士の任意後見執務に対する提案とその理由
【はじめに】
任意後見制度は、本人の自己決定を最大限尊重するために受任者との契約という方法によるものではあるが、成年後見制度のひとつであり、判断能力のおとろえ た人々の権利擁護の制度であるという視点にたつことが重要である。さらに、司法書士が任意後見契約の受任者となる場合には、消費者基本法の適合性の原則が 適用され、委任者本人との間に、圧倒的な知識や情報量の差があるものとして捉え、委任者の意思の反映に十分留意しなければならない。
成年後見制度を支える専門職として、私たち司法書士が、任意後見契約書の作成に関与し、また、任意後見契約の受任者として契約締結する場合の執務姿勢について、司法書士倫理を踏まえ以下のとおり提案するものである。第1 類型別任意後見契約の選択
1.将来型任意後見契約
【提案】
司法書士は、依頼者から任意後見契約に関する相談を受けた場合、見守り契約および将来型任意後見契約を締結することを依頼者とともに検討するものとし、その必要性に応じて任意代理契約を含む移行型任意後見契約の締結を検討すべきである。
【理由】
移行型任意後見契約における任意代理契約により財産管理事務等を継続し、任意後見契約の効力を生じさせない問題があることについては、制度改善提言第2の【問題の所在】において前述したとおりである。
そこで、司法書士が行う任意後見契約における事務においては、外部からの疑義を受けることなく、本人との信頼関係を維持できるよう、執務のあり方を考える必要がある。
従来、司法書士は、依頼者から任意後見契約の締結に関する相談があった場合、見守り契約のほか、任意後見契約における代理権の範囲と変わらない包括的な任 意代理契約を依頼者に勧め、本人の同意により見守り契約から任意代理契約へ移行する包括的代理権の移行型任意後見契約を数多く締結してきた。
これは、あらゆる事態を想定してどのような場合においても対応ができるように、本人の権利擁護の意図であるとともに、高齢者にとって必要の都度行う契約に 関する説明を含む代理権の付与に関する一連の手続きが任意代理人にとって煩雑であることが理由として挙げられてきた。
しかし、実際には不動産の売買契約や施設入所契約を締結する場合、これらを含む包括的に代理権が付与されていたとしても、不動産売却であれば売買価格を含 む契約内容について、施設入所契約であれば事前の見学をしながら本人の意向を確認して契約内容を含む重要事項について、本人が受任者である司法書士と相談 しながら最終決断をしていたものである。
つまり、個々の法律行為についての本人の意思を形成する過程においては、それぞれほとんどの司法書士が成年後見制度の理念である「自己決定の尊重」を実践し、その都度丁寧な作業を進めてきたのである。
そこで、判断能力が減退していない本人を支援する任意代理契約の役割として、「必要性の原則」や「残存能力の活用」の理念に沿って、本人自ら行えない事項 に限り、必要なときに、必要な範囲で本人の支援を行う本来の成年後見事務のあり方に立ち戻る必要があるのではないだろうか。
ところで、司法書士が任意後見受任者である場合においても、見守り契約は必要なく、純粋な将来型任意後見契約のみでもよいケースがあるのではないか、という議論がある。
司法書士向け任意後見契約に関するアンケートによると、アンケート回答者の取扱い件数765件中、実際に見守り契約を併用しない将来型任意後見契約のみの締結件数は92件との回答があった。
見守り契約を締結しなかった理由として、将来型任意後見締結件数92件のうち36件が本人を身近に見守る人がいることを挙げている。
見守りの機能としては、 (1)本人の判断能力の低下など健康状態や生活状況を把握するためと (2)本人とのコミュニケーションを図ることにより、信頼関係を構築・維持していくことにあると考えられる。
(1) については、見守りの方法やその頻度などの程度はさておき、ある程度定期的に受任者自身が本人と面談して確認する必要はあるものと思われる。また、 (2)については、契約締結後判断能力低下するまで全く本人と接触しないことは、財産引渡しに本人が難色を示すなどなど任意後見事務開始後の本人との信頼 関係構築に支障をきたしている事例もある。
以上のことから、司法書士が任意後見受任者となる場合においては、将来型任意後見契約のみならず、見守り契約も委任者にその必要性を説明して併せて契約すべきものと考える。
さて、どのような利用の仕方をするかの決定権は、任意後見制度を利用する本人にあることは当然のことである。司法書士においては、利用の仕方の選択肢を提 示し、各選択肢のメリット・デメリットを利用者の立場からわかりやすく説明し、そのうえで専門家として利用者個人に適した選択肢を勧めることがその役割と して求められていると考える。
この提案は、「契約自由の原則」や「自己決定の尊重」に反する趣旨のものではなく、最終決定権は利用者本人にあるにしても、利用者が適切な決定権を行使するために、司法書士が助言者としての考え方を示す趣旨のものである。2.移行型任意後見契約
【提案】
司法書士は、本人の状況に応じて任意代理契約を締結する必要がある場合は、その代理権の範囲について、日常生活に必要な預貯金に関する銀行取引や重要書類 の保管など保存・管理行為および有料老人ホーム等高額な入居一時金の支払を伴う施設入所契約を除く身上監護事務に限定したものとすべきである。
【理由】
任意後見契約を締結するに及んでは、見守り契約も締結すべきではあるが、事例によっては、既に本人が病院に入院していたり、施設入所しているなど、本人に おいて財産管理ができず、任意代理契約を締結して受任者が利用料の支払など何らかの財産管理を行う必要がある場合もある。そのような場合は、本人の依頼に 基づいて見守り契約だけでなく任意代理契約を締結する必要がある。
ところで、任意代理契約においては、本人の判断能力が健常であることから、必要な情報を入手できれば、代理人ではなく本人が契約締結することができるはず である。本人が金融機関の窓口へ出向けない場合など代理人が代わって事務を行わざるを得ないときでも、財産管理・身上監護事務を行うにおいては、本人に とって必要な範囲であるべきであり、本人と十分相談してなされなければならない。
つまり、従来と同様の広範囲な代理権を授与された任意代理契約においては、その事務の遂行方法によっては、「必要性の原則」や「残存能力の活用」の理念と反することになりかねない。
そこで、必要な代理権の範囲に限定して、日常生活に必要な範囲の保存行為もしくは管理行為に限って授権されることにすべきと考える。
具体的には、「年金、福祉手当等の入金管理」「医療機関、療養機関等への費用の支払い」「各種介護・福祉サービスその他生活にかかわる費用の支払い」「国 民健康保険料、介護保険料、税金その他公共料金の支払い」などについては問題ないが、「本人所有の全財産の保全、管理」ではなく、管理する財産については 必要な範囲に限定し、「本人名義の全預貯金に関する払い戻し、預け入れ、口座開設、更新契約その他変更契約および解約並びに貸金庫取引」については、日常 生活に関する預金口座の取引のみとし、預金口座の解約等については代理権の範囲から除外し、「不動産の売却」や「施設入所契約の締結」などについては、授 権を受けず、その必要がある場合は、当該行為の支援を行うことで対応したり、または、その都度授権を受ける等とすべきである。
また、「入院契約やその費用の支払い」など身上監護事務については日常的な業務として代理権の付与は必要である場合もあるが、「有料老人ホームへの入所契 約の締結」などは本人自身が見学しながら検討する必要があり、また多額の入居一時金の支払が必要でもあるため、不動産の売却と同様に扱うべきである。3.即効型任意後見契約
【提案】
司法書士は、軽度の判断能力の低下がみられる本人から任意後見受任者としての任意後見契約締結の依頼があっても、原則として、補助開始の申立てを検討し、法定後見制度の利用を勧めるなど慎重に対応すべきである。
【理由】
公証人向け任意後見契約に関するアンケートによると、任意後見契約公正証書の作成にあたり委任者(本人)の意思能力に問題があると感じたことがある公証人は全体の37%であった。
これは、既に判断能力が低下している委任者からの公正証書作成嘱託件数がかなりの数があることになる。
アンケートによると、その際公証人は、「法定後見制度の利用を促す」「医師の診断書を請求する」「本人の状況を録取した書面を作成する」「長谷川式簡易知能評価スケール等の簡易な意思能力判定テストを実施する」などによって対応している。
任意後見制度は、最も「自己決定の尊重」を具現化したものと評価されている制度でありながら、判断能力が低下した本人による任意後見契約締結においては、どこまで「自己決定」ができるのか、任意後見受任者の恣意的な契約内容にならないであろうかという危惧がある。
具体的には、判断能力が低下している本人において、任意後見制度を利用することについて二つの問題点がある。
一つ目は契約の有効性についてである。
任意後見契約は、判断能力低下後の広範囲な財産管理・身上監護事務に関する授権をし、それに伴い、多額の財産を預けるものであり、その事務遂行期間が長期 に渡ることが予想されることから、任意後見契約締結に必要な判断能力は通常の有償契約よりも高度のものが必要とされると解する。
二つ目は本人受任者間の信頼関係の構築が困難であることである。
通常、時間をかけコミュニケーションを取ることが信頼関係の構築の要素となるが、判断能力が減退している本人とコミュニケーションを取ることはかなり困難であり、契約締結後において本人とトラブルが生じているケースは、信頼関係構築が不十分であることがうかがえる。
一方、補助開始の審判においてどこまで本人の自己決定が尊重されるかについて、任意後見制度のメリットであるそれと比較検討した場合、補助人等について家 庭裁判所に選任権があるとはいえ、民法上被補助人の意見を考慮しなければならない旨の規定もある等、限りなく任意後見制度に近いと考えられる。となればこ のような場合、本人の保護の重要性から、法定代理人の選定や代理権の付与について家庭裁判所に決定権があり、監督においてもより家庭裁判所の関与が強い法 定後見による支援を視野に入れて検討すべきではないだろうか。
判断能力が低下している本人との契約は、本人の自己決定よりも受任者の提案内容がそのまま契約内容となる傾向があり、説明義務を果たしたか否かにおいても外部からは疑義を生じることも考えられ、法律家としての見識が問われかねないので慎重に対応すべきである。
ただし、日常生活に関する行為に限定した任意後見契約や早期にアルツハイマー型認知症と診断された方などが、今後の自己の生活支援について、自らの意思により任意後見制度の利用を真剣に検討している場合においても門前払いしてしまうことには議論があるところである。
そこで、
a 本人は任意後見制度を理解しているか
b 本人が任意後見契約を締結したいという積極的意思を有しているか。
c 本人が任意後見契約の締結に向けて実際に積極的な検討を行ったか。
以上の三点をクリアーするためには、かなりの意思能力と積極的意志が必要であり、これらを経て表明された任意後見制度を利用したいという「自己決定」は尊重すべきものと考え、たとえ軽度の判断能力の減退があったとしても、任意後見契約を締結は可能と考える。第2 契約を締結する場合の留意点
【はじめに】
契約締結に際しては、本人の自己決定に基づく内容が契約書に反映されるよう、契約締結までに本人に十分な熟慮期間を与え、本人が納得した上で契約を締結す べきである。以下、任意後見契約書作成に当たり、司法書士が契約に関与し、または任意後見受任者として契約締結する場合に、留意すべき点、工夫すべき点に つき提案する。1 わかりやすく、本人の状況を反映した任意後見契約書にするための工夫
【提案】
司法書士が作成する契約書は、本人にわかりやすい契約書にし、かつ、本人の希望や事情を反映した契約書にしていく努力が必要である。
【理由】
一 般に任意後見契約書の文言はむずかしく、委任者にわかりにくいという批判がある。そして、公証人に対するアンケートにおける、司法書士作成の契約書案に対 する意見に、定型的な「雛形」や「書式」に頼っており、契約条項や代理権内容をもっとわかりやすく簡潔にすべきであるという意見が見られる。ほとんどの社 員が、わかりにくい条文について十分説明した上で契約しているものと思われるが、後から読み返して、当事者である本人に理解できないような契約書では問題 がある。あいまいな表現は、後でトラブルの原因となるため、ある程度はやむをえないが、もっと委任者ごとの事情を考慮した個別の契約とする必要があろう。
本人の希望や事情を反映したわかりやすい契約書とするために、以下のような具体的な工夫を提案する。
(1) 契約の趣旨に、「なぜ任意後見契約を結んだのか。どうしてこの受任者に判断能力がおとろえた後のことを依頼したのか」等について、委任者の言葉を具体的に入れ、後日の争いを避ける。
(2) 契約書の当事者は甲・乙でなく○○さん等の呼称を使う。
(3) 任意後見契約の中に死後事務委任条項を入れる場合は、条文を整理して、分けて記載する。
(4) 契約書の中で、日常業務(継続的業務)と、非日常業務(特別の業務)について説明する。
(5) 法律用語は、できる限り平易な言葉にかえ、「です」「ます」調にする。
(6) 契約書本文のほかに、委任者に「代理権についての説明書」を渡し説明する。2 契約内容の十分な説明と重要事項の説明
【提案】
司法書士は、契約締結に際し、任意後見制度や契約内容を十分に本人に説明する義務があり、重要事項については、図や表等を活用してわかりやすいものにする工夫が必要である。
【理由】
司法書士が契約の一方の当事者(任意後見受任者)として任意後見契約を締結する場合、有償契約となり、消費者基本法、消費者契約法の適用を受けることになる。そのため、法定後見制度との比較において本人が任意後見制度を正しく理解しているかどうかが重要である。
(1) 事実行為、身元保証、医療行為の同意等任意後見人にできないこと (2) 任意後見人に取消権のないこと (3) 任意後見事務の開始時期 (4) 家庭裁判所によって選任される任意後見監督人の役割 (5) 法定後見への移行の可能性 (6) 任意後見人の報酬(日常行為における定額報酬・日当・特別な事務の報酬) (7)任意後見監督人の報酬 (8)任意後見受任者及び任意後見人の死亡等によ る契約の終了等、任意後見契約書の条文には直接現れない、任意後見契約の特性について説明し、本人に契約内容の十分な理解を求めるべきである。また、個々 の代理権について、具体的にどのようなことができるのかを説明し、本人が必要とする代理権を選択しなければならない。
そして、単に重要事項説明書という書面を提示するのではなく、本人の疑問にていねいに答えながら説明するという姿勢が必要である。
なお、重要事項の説明が却って本人にわかりづらいものであってはならないため、図や表を活用して、わかりやすいものにする工夫が必要である。3 本人の希望により本人の真の支援者を交えた契約内容の検討
【提案】
任意後見契約締結に際して、対等な契約関係を保障するために、本人の希望があれば、本人の真の支援者等を立ち会わせる等の工夫も必要である。
【理由】
司法書士のような専門職と一般の市民の間では専門知識等の情報量と経験の差は圧倒的に違うため、専門職が受任者となる場合には、専門職からの一方的な説明 に終始しがちである。そこで、本人の自己決定や希望を引き出すために、契約内容の検討の場面では、本人の希望があれば、本人の支援者等を交える等の工夫も 必要である。
この場合、「支援者」という人が本人に圧力をかけている場合もあるため、その見極めが重要であり、本人よりも「支援者」の希望や意思が重視されることのないようにすべきであることは言うまでもない。4 委任者の意思を把握する相談姿勢
【提案】
本人に意思能力がある場合でも、周囲の思惑により契約締結がすすめられている場合には、本人が任意後見契約の意味を十分に理解し、自らの積極的意思により 任意後見契約を締結しようとしているのか、本人の契約意思の有無を慎重に確認するとともに、本人の権利が不当に侵害されないよう慎重な対応が必要である。
【理由】
次のような場合、本人の契約意思の有無を慎重に確認すべきである。
(1) 有料老人ホーム入所契約の身元引受人の代替的契約
有料老人ホームとの入所契約において、適当な身元引受人がいない場合、施設側が代わりに第三者との任意後見契約締結を求めることが多い。その場合、本人の 当初の目的は有料老人ホームに入所することであり、本人にとって任意後見契約はそれに付随した契約にすぎない。そのため、本人には任意後見契約の目的や任 意後見人の権限を積極的に理解しようという気持ちがあまりないため、受任者は契約締結後の信頼関係の構築に苦労することになる。また、本人は、施設の担当 者に紹介された受任者を施設側の人間として捉えがちであり、任意後見人(受任者)を自らが選んだ代理人として容易に認識することができないという問題をか かえる。
(2) 金銭信託の「指図権者」選任のための契約
金銭信託の締結において、本人の判断能力が衰えた場合の「指図権者」選任のために、信託銀行から任意後見契約の締結を求められることがある。その場合も、任意後見契約の必要性を本人が真に認識しているとは言いがたく、上記 と同様の問題をかかえている。(1) や (2)の場合、本人に必要な契約である以上、不当な契約とは言えない。しかし、本人の生活における権利擁護という任意後見契約の本来の目的について説明 し、本人に任意後見契約締結の趣旨を十分に理解してもらうよう努め、拙速な契約は慎まなければならない。そして、受任者となる司法書士は、施設や信託銀行 からは独立した立場であり、本人の権利擁護のための代理人であることを説明しなければならない。また、まず「契約ありき」ではなく、自分が本人の代理人と しての立場を堅持できるのか、本人との信頼関係を築いていくことができそうなのかということも含めて検討しなければならない。
(3) 親族間の争いの主導権を得るための契約
親族間に争いがある場合に、親族の一人が本人と任意後見契約を締結しようとすることがある。このような場合は、ほとんど受任者側の主導で行われ、本人には積極的に任意後見契約を締結する意思はなく、また拒否することもできないでいることが多い。
あるいは、本人の判断応力が補助類型や保佐類型の場合に、任意後見が法定後見に優先することを利用して、他の親族の法定後見 の申立てに対抗するために任意後見契約を締結しようとすることがある。
(4) 居住用不動産の処分・資産活用・税務対策のための契約
法定後見制度においては、居住用不動産の処分についてか家庭裁判所の許可が必要であるが、任意後見制度では、居住用不動産の処分においても家庭裁判所の許 可は不要なため、親族等が受任者となり、判断能力の低下した本人の居住用不動産の売却や担保設定のために、法定後見制度の厳格な手続を避けるための抜け道 として利用されるという場合がある。
また、本人の意思ではなく周囲の思惑で、資産運用のためだけに任意後見制度を利用したり、相続税対策のために推定相続人を受任者として多額の報酬を決める等、制度本来の趣旨から離れた利用を予定していることがある。(3) や (4)の場合、相談を受けた司法書士は、制度の趣旨と契約締結の意味を説明し、委任者本人と個別に面談する等してその意思を確認し、契約内容についても、本人の権利が不当に侵害されないよう慎重な対応が必要である。
5 任意後見監督人の同意を要する特約の検討
【提案】
居住用不動産の処分や不動産の購入等重要な法律行為、日常業務以外の特別な法律行為について、任意後見監督人の同意を要する代理権としての特約を付すことができることも、契約内容の選択肢として検討すべきである。
【理由】
任意後見契約においては、法定後見における居住用不動産の処分の許可は必要とされていない。そのため、親族が判断能力の低下した本人の居住用不動産を処分 するために、法定後見制度における厳格な手続を潜脱するために任意後見制度を選択するという例もある。制度上は、任意後見人の代理権行使のすべてが任意後 見監督人への事後の報告によることになり、すでになされた法律行為の取消しはできないため、悪用された場合回復困難である。
また、司法書士が受任者となる場合、本人は、契約締結時に日常業務に対する報酬(定額報酬)については納得していても、今後起こるかどうかわからない非日 常業務に対する報酬については、しっかりと理解されていないことがある。そのため、非日常業務の報酬の受領に際し、任意後見監督人の同意を得るという方法 もある。これは、本人の権利擁護のためであり、また受任者である司法書士の公明性を担保するためにも効果的である。
本人の判断能力が補助類型の場合でも、任意後見人の代理権は後見類型並みに広汎に付与されることが多く、重要な法律行為については、任意後見監督人に事前に相談するために、同意を要する特約を付すことも、本人が考慮できる選択肢のひとつとして検討すべきである。6 法定代理人等本人以外の者を委任者とする任意後見契約
【提案】
親権者又は未成年後見人が本人を代理した契約は、本人の自己決定の尊重という制度趣旨に鑑み、適切ではないと考える。
【理由】
主に知的障害者の親が、信頼する受任者に親なきあとの子の後見を頼みたいという思いから契約されることが多いと思われる。しかし、それは親による他者決定 であり、本人(子)の自己決定とは言えない。本人が成年に達したとき本人に契約締結能力があれば、そのときに本人自身が契約すべきであり、ない場合は法定 後見制度を利用すべきであろう。
もし、法定後見制度を利用するための申立人がいないのであれば、親が元気なうちに、親を成年後見人等として法定後見制度を利用し、親なきあとは後任の成年 後見人等を選任してもらうようにすればよい。この場合、事前に後任の後見人候補者を裁判所に伝えておくことも可能である。
なお、未成年者本人が、親権者や未成年後見人の同意を得て行う任意後見契約も、未成年者自身の年齢や契約締結能力により、未成年者自身の意思が明確な場合は認められるが、慎重に対応すべきである。7 医療行為における同意について
【提案】
任意後見執務における医療行為の同意については、任意後見人に同意権が認められるかどうかの法律上の議論はひとまず置くとして、実務上、定期的な本人の意思確認に基づく本人の意思を表明したライフプラン等の文書の活用も含めて検討すべきである。
【理由】
任意後見人に医療行為の同意権を与えよという意見があるが、法定後見における成年後見人に医療行為における同意権がない現状で、任意後見人にのみ代理権を付与すべきかどうかという結論を出すことは困難である。
しかし、任意後見契約を締結する本人の中に、任意後見人に対し医療行為における同意を望む声が多いのも事実である。成年後見人の場合と異なり、契約締結か ら発効までの間に、本人の意思を知ることができ、現状でも、リヴィング・ウィルの締結の有無や、ライフプランや「覚書」に記載した本人の意思を、主治医に 伝えることは可能である。その場合も、ライフプランの定期的な見直しが必要なように、契約締結時だけではなく、定期的な本人の意思の確認が必要である。・おわりに
わが国の任意後見制度は、本人の自己決定の尊重という理念を具現化するとともに、本人の意思能力が不十分となった場合に本人の自己決定を制度的に保障する 画期的な制度であると言われる。しかしながら、それは任意後見契約が発効してからのことであって、契約締結から契約が発効するまでのことについて、法律は 何ら規定していない。
最高裁判所事務総局家庭局の統計によれば、2006年3月末日までの任意後見契約の締結件数の累計が約15000件であるのに対して、任意後見監督人が選 任された件数は、約1000件に過ぎない。本来は任意後見監督人を選任しなければならない状況であるにもかかわらず、任意後見受任者等の制度への理解不足 から、あるいは故意に選任申立がなされていないのではないか危惧される。
本人の自己決定に基づく制度である以上、過剰な介入は厳に慎まなければならないが、一方で任意後見制度の悪用や濫用が起こり始めている状況もあり、発効前 任意後見契約について何らかの監視制度を導入すべきではないかという点について検討を行ったが提言を発表するまでには至らなかった。具体的には、 (1)任意後見受任者が自ら公的機関に対し、本人の判断能力等を報告する、任意後見契約効力発生前の報告制度や、 (2)本人の周囲の支援者が任意後見契約の存在を認識するため、任意後見契約締結時に本人の指定する者へ任意後見契約を締結した事実を通知する、任意後見 契約締結についての通知制度、そして、 (3)本人と受任者の双方の状況を注視し、個人情報保護法の例外として、本人に関する情報を入手し、必要があれば関係機関へ通報する制度として、本人の判 断能力に関する調査・通報制度等の創設等について検討したが、結論を見ず、今後の検討課題としたい。
なお、先に発表した「法定後見制度改善提言」において示した、成年後見人への郵便物の転送・送付手続きの必要性は、今回の提言項目には入れていないが、任意後見人についても同様であることは言うまでもない。
さらに、任意後見制度を推し進めてきた専門職の一員として、私たち司法書士は自らの執務のあり方を厳しく見つめ直す必要がある。ここに発表した司法書士に 対する任意後見執務に対する提案は、そのための一助として発表するものである。司法書士が任意後見制度に取り組む姿勢としては、本人の権利擁護の視点を十 分に意識したものでなければならず、高度な職業倫理に基づく厳しい執務姿勢が求められることは言うまでもない。私たち司法書士は、任意後見制度をよりよい ものとするために、今後も自らの執務を向上させていくとともに、制度を支える専門職として制度改善のための発言をしていく決意である。