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意見書等
2007年(平成19年)09月03日
新貸金業協会設立協議会 御中
「苦情処理及び相談対応に関する規則(案)」に対する意見書
日本司法書士会連合会
会長 佐 藤 純 通日本司法書士会連合会(以下,「当連合会」という。)は苦情処理及び相談対応に関する規則(案)(以下,単に「規則」という。)について,以下の通り意見を述べる。
第1 相談センターの相談業務について
1.日本貸金業協会(以下,「協会」という。)が資金需要者等に対する借入れ及び返済に関する相談又は助言その他支援(以下,「相談業務」という。)を行うことは,資金需要者等に対する相談拠点が増えることから望ましいともいえる。
しかしながら,相談窓口を設置するにとどまらず(規則5条1号,同19条2項),協会の相談センターの相談員が,返済計画を立案し斡旋を行うことは(規則5条2号,同27条),以下の点に問題があることからなされるべきでない。2. すなわち,協会の相談員は,協会に所属している貸金業者の会費を原資とする協会の運営費から給料を得る立場にあり,協会に所属している貸金業者の債権を利 息制限法に引き直した上で,返済案を立案したり,あるいは貸金業者に対する過払金の回収ができるというような貸金業者に不利益な内容を含む助言を行うこと は期待が出来ない。
また,相談者の状況によっては直ちに破産手続,個人再生手続の申立てを行うよう助言することも必要となると考えられるが,貸金業者に不利益を及ぼし得ることを行うことが出来るのかも,前記同様に疑問である。
さらに,より根本的な問題として資金需要者等の経済生活の再建には,全ての債務を対象としてなされる必要がある。
協会の組織率が100パーセントとなるまでには相当の時間が必要であると考えられることから,協会の相談センターでは貸金業者すら全てを対象とすることが出来ないという限界がある。
また,資金需要者等の債務の中に銀行への債務,信販会社の立替払契約に基づく債務が存在する場合も想定される。
そのため協会の相談センターの策定する返済計画案では協会所属貸金業者に対しては有効であったとしても,協会所属貸金業者以外の債権者に対しては,実効性 を確保することが出来ず,結果として部分的解決にしかならず,資金需要者等の真の経済生活の再建にはつながらないといえる。3.まとめ
協会の行う相談業務として返済計画案を立案し斡旋を行う「債務整理」を含めることには反対する。
協会の相談業務として,相談をした資金需要者等に対し協会は相談者の生活状況,収入状況等を踏まえて,相談者の具体的事案に応じて多様な選択肢を提示し て,その事案に相応しい借入れ及び返済に関する相談又は助言その他支援を適切かつ確実に実施出来ると認められる団体を紹介するという「情報提供業務」を行 うべきである。仮に,相談業務を認めるのであれば,
(1) 取引当初からの利息制限法による充当再計算を必ず行うこと
(2) 過払金がある場合はその返還を確実に行うこと
(3) 最終弁済時の残債務額を基準に残債務を確定し,これに利息・遅延損害金を付さないこと
(4) 人的物的担保を徴求しないこと
(5) 非協会員の債務も存する場合は,これを放置して協会員の債務のみを整理しないこと(この場合は,適切な多重債務相談機関に誘導すること)
を最低限の基準とすべきである。(1) ないし(3) は司法書士・弁護士が行う債務整理の一般的な取扱であり,これよりも不利となる債務整理となるのであれば債権者の回収を優先するものとして容認することはできない。
また (4)の人的物的担保徴求についても多重債務被害の拡散を招くものであり許されない。 (5)の非協会員の債務がある場合について,これを放置することは多重債務の根本的解決にならないのであり,早期に適切な多重債務相談機関へ誘導すべきである。第2.相談への対応について
1.当連合会は,前記1.のとおり協会が相談業務として債務整理を行うことに反対するところであるが,念のため「相談への対応」(規則37条)のうち,問題であると考える点について,意見を述べておく。
2.返済能力を検討する際,返済計画に基づく毎月の返済額の合計が,債務相談対象者の月収の3分の1を超えることが見込まれる場合は返済計画案の立案をしてはならないとされているが,債務整理の原資の上限として月収の3分の1本を許与する本規定には問題がある。
「多 重債務問題の現状と対応に関する調査研究」(国民生活センター)によれば,債務者の家計状況について「総務省統計局の2004年の家計調査では,年間収入 五分位階級別一世帯あたり年平均勤労者世帯1か月間の収入と支出が明らかにされているが,サラ金等の利用者の多くは,年間収入452万円以下の第1階級の グループに属すると考えられる。そのグループの月平均の可処分所得は260,185円であるのに対し,消費支出は月額平均220,329円である。消費支 出のうち,住居費が月額平均23,521円となっているが,家賃の支出がある場合には,その額は月額5~6万円程度,また住宅ローンの返済には月5から 10万円程度は必要であると考えられるから,その場合の支出はもっと多くなる。」と分析されている。
仮に26万円の可処分所得を有する相談者の3分の1相当額は,86,000円に上ることになり,消費支出を考えれば月収の3分の1を債務整理の原資とするような規定が現実離れしていることは明かである。
ところで,総量規制の年収の3分1という要件は,年収の3分の1を総額とする債務を一定の期間で完済することを予定としている。現に規則27条3項においても返済期間をおおむね3年とすることを定めている。
したがって,債務者の家計状況の統計的分析並びに総量規制の趣旨から,年収の3分の1に相当する債務を3年間で返済する場合は,毎月の総返済金額の合計は月間収入の9分の1を超えないものとしなければならない。