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意見書等

2004年(平成16年)01月30日

法務省大臣官房司法法制部司法法制課 御中

「法教育研究会・論点整理」に対する意見

日本司法書士会連合会

 

 
当連合会は、法律実務家の負うべき社会的責務の実現に適うものとして、平成11年から初等中等教育推進委員会を設置し、同委員会を中心 に、積極的に法教育の研究を行ってきた。また、現在全国的に実践している司法書士による消費者教育を中心とした法教育の実践等については、法教育研究会で も、平成15年12月26日、「論点整理」の中に司法書士(司法書士会)による取組みが報告されている(資料4-1、4-1)。また、全国50ある司法書 士会のうち、80%を超える41の司法書士会で法教育(消費者教育)事業を実施しており、平成14年度は361校にも及ぶ。その取組み内容は司法書士が日 常業務の中で得た知識や経験をもとに独自に構成された内容が数多い。
司法書士は、全国各地で消費者教育を中心とする法律講座を実践してきた経験から、初等中等教育における法教育の必要性を痛感するとともに、学校教育における法教育の導入は賛成し、早急に取り組む観点から、以下のとおり、「論点整理」に対する意見を述べるものである。

 

 

1.司法書士による高校生のための消費者教育の実践
(1)司法書士は、なぜ、高校生のための消費者教育を実践するのか
司法書士は、地域に密着し、日々生活に身近な法律問題を中心に市民の相談相手として、悪質商法被害、クレジットカードトラブル、多重債務問題などに積極的な取組みをしてきた。
とりわけ近年の自己破産件数の増大は看過しがたく、平成14年1年間の個人の自己破産申立件数は214,633件(日本の人口の約600人に1人)とな り、中でも若年者層による破産の申し立てが急増している。破産に至ったケースには、悪質商法被害に遭って法的な解決方法があることを知らずにローンを払い 続けた、また、利息やクレジットカードの仕組みを知らずに簡単に借金をしてしまった例など、法律知識が少しでもあれば未然に防げる事例が多数見受けられ る。
また、法律知識が未熟で社会体験が少ない若者は悪質商法のターゲットとなりやすく、その多くが(高校生も含めて)キャッチセールスなど違法性の強い勧誘を受けている。
現在、初等中等教育機関における法律に関する教育としては、(教科・教育の中で、)日本国憲法の学習を中心とした人権や司法制度を学ぶ内容として実施され ている。しかし、いざ進学先が決まって「下宿をした」「アルバイトを始めた」「就職をした」というときに実際にすぐ必要なのは、売買・賃貸借・労働契約等 の契約の知識であり、トラブルにあったときの対処方法、司法制度の利用方法についての知識である。家庭科においては、一部消費者法分野の教育が実施されて いるところであるが、これを実社会で活用する能力の養成も必要である。
司法書士は、このような問題意識の下に、就職や進学で社会に巣立つ前の高 校生を対象に、悪質商法、クレジットカード、高金利、保証人等に関する法律知識を伝えることを中心として、ビデオ・寸劇等を利用しながら、主に消費者教育 の分野でのわかりやすい法律講座を実施してきた。

 

 

(2)司法書士による消費者教育の実践の成果と課題
当連合会初等中等教育推進委員会において、全国各地の司法書士による法律講座についての生徒・教師からの感想を分析したところ、概ね「役に立った」「卒業したらいろいろなことに注意をしなければならないことが分かった」、との評価をいただいている。
一方で、一部の生徒からは「~してはいけないと言われたが、それではどうしたらよいのか」「すぐ手口を変える悪質商法を見抜く自信がない」「誘われたら断れないかも」というような不安も寄せられている。
講師役の司法書士からも、「意見をたずねても発言してくれない」「他人事のように聞いている」「反応がわからない」といった悩みも寄せられている。
生徒・教師・講師(司法書士)の感想からは、私たちが目標としている、契約締結の際の「自らの権利・意見を主張する力」「判断をする力」、必要がなければ 「断る力」、マルチ商法が理解できればネットワークビジネスもおかしいと気付く「応用力」、というような「能力・資質」の養成についての効果が不十分では ないかという課題がある。

 

 

2.司法書士が考える法教育――高校生のための消費者教育の実践をもとに
論点整理で「法教育のねらいとして考えられる事項」として掲げられたものは、司法書士が法律講座で伝えようとしてきた目的と重なる。
私たちは、教科書には書かれていない高校生にも分かりやすい「生の事件」の実例をあげ、あらゆる生活場面に「契約」があり、法律は身近なものであることを 伝えてきた。そして、契約は口約束でも成立すること、契約当事者には互いに責任が伴うことを知らせ、それゆえに、よく考え確かめて、契約をするかどうかの 判断をしなければならないこと、そして、自分自身が当事者として、自分の責任で判断をせまられるようになることを伝えてきた。
法律講座の実施に あたっては、生徒のジェンダーの視点にも留意している。例えば、重要な契約は男性が判断するから女性は判断しなくてよいというような態度の生徒がいない か、男女の役割をステレオタイプに捉え、硬直的な判断ではないのか注意を払っているところである。そして、すべての人が個人として尊重され、その能力や適 性を発揮して社会生活をするためには、男女の区別に関わらず、一人一人が主体的に考えて、責任をもった判断をし、意見を述べることが必要であることを伝え ている。
このように、私たちは、自ら判断を下す際の情報として不可欠な法律知識や法の基本原理を伝えてきたが、これが小学校から発達段階に応じて実施された法教育の成果のうえに実施されるならば、より体系的・効果的に法を主体的に使いこなす力が養成できる。
このような主体的な力を育てるためには、論点整理に繰り返し述べられている手法、すなわち、法が国民を単に束縛するだけのものではなく、自らの権利を守る ためにあるということを、立法活動に主権者として積極的に関与することの重要性を体験させる学習を通じて行うことが、最も重要だと考える。
毎日 のように報道される少年犯罪の現状に不安をもつ多くの国民にとって、「法教育」という言葉からイメージするものは、法律をしっかり守らせることを目的とす る教育ではないだろうか。しかし、法律を守らせるという受け身の教育では、法律は国民を拘束するものであるという統治客体意識から子どもたちは脱却するこ とはできない。ともすれば、親も教師も、子どもたちに対して法律を守れと結論のみを要求しがちであるが、なぜ法律が存在するのか、法律をどのように使えば 自らを生かし他者と共生することができるのかという法の趣旨・活用方法を、子どもたちが体験を通して能動的に学び、これにより法律を守ることの意味を理解 し、自分の意見をまとめ表現する能力を養成することが重要である。
したがって、法教育においては、教えるべき内容だけではなく、その方法が極め て重要な意味を持つ。そして、工夫された能動的な方法による法教育が、小学校からの発達段階から実施され、司法書士による法律講座が同時に進行されるので あれば、法的判断力及び前記資質の養成をより効果的に行うことが可能である。

 

 

3.司法書士が教員を支援して実践する法教育実現のために
このような「能力・資質」の養成のためには、教育のプロであるすべての教員が、法教育の必要性を正しく理解し、発達段階に応じた法教育の実践に取組んでいくことが不可欠である。
これまでの司法書士による法律講座は、司法書士側が考える消費者教育の必要性と学校側のニーズが一致し、全国的に展開され、さらなる広がりを見せている。 しかし、高校生の卒業前の「イベント講演」として実施されることも少なくはなく、学校によっては、内容も方法もすべて司法書士に「お任せ」という場合もあ る。教員による法教育の成果の上に法律講座が実施され、社会科・家庭科・その他の教科での学習とも連携し、教員とともに教材・実施方法を練り上げた「講 座」であれば、効果的に「能力・資質」の養成ができると考える。
当連合会は、法教育の導入に賛成し、人権・平等・ジェンダーの視点・法の支配と いった憲法及び法の基本原理を大切にしながら、日常生活に身近な私法分野(特に消費者法分野)を中心とした教材を提示し、教員・学校を支援する形で、高校 生を中心とした法律講座活動を活性化し、法教育の効果をより高めていきたいと考えている。
問題意識を理解している教員との間で、教員と司法書士双方が連携した教材・指導案の研究を進めようとしている地域も少なくない。
以上から、教員と司法書士等の法律家、法律実務家との協力・共同研究がより容易に進められるための方策や財政的措置が必要であることはもとより、法教育を 実施する教員と協働するためには、消費者教育等による一定の責任を果たすことができる司法書士の役割は重要であるものと考える。

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