日本司法書士会連合会について 情報公開

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意見書等

2004年(平成16年)06月11日

司法制度改革推進本部事務局 事務局長 山 崎 潮 殿

ADR基本法に関する意見と司法書士ADRセンター開設に向けて

日本司法書士会連合会
会 長 中 村 邦 夫

 

 

 

日本司法書士会連合会(以下「日司連」という。)は,司法制度改革が進められる中において,整備されつつある種々の制度基盤がより実効性 あるものとして国民の中に定着していくためには,これを理解し実行できる「法の担い手」が必要であると考えています。そして,私たち司法書士は,「国民に 最も身近な法律家の一員」として国民と司法の良質な接点でありたいと願っています。
いま多くの関係者が熱心に,そして献身的に取り組んでおられ る裁判外紛争解決手続,いわゆる「ADR」の制度化に関しても,裁判手続と並んで魅力ある紛争解決手段としてのADR制度を作り育てていくため,司法書士 会の組織を挙げて精力的に対応しているところです。具体的には,全国の司法書士会が開設するADR機関(仮称「司法書士ADRセンター」)を司法へのアク セスポイントとして整備することでこれからの司法書士の役割を更に充実させ,国民の意識に紛争解決手続の選択肢としてADR制度が定着することを支援して いきたいと考えています。
そこで,ADR制度の発展に寄与し,司法書士ADRセンターが国民から十分に活用されるものとなるため,現在検討過程にあるADR基本法の予想される姿に関し,次のとおり日司連として意見を表明します。

 

 

【ADR基本法に関する意見】

 

 

1 弁護士法第72条の適用除外の特例
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弁護士法72条の保護法益論を,司法制度改革の理念に沿って再構築し,社会の期待に応えられる司法の実現とADR制度の定着に向けて,現行法令上既に除外されている法律事務を除き,さらに一定の要件のもとでADR手続における諸業務を適用除外とすべきである。
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ADR検討会においても重要な論点として検討が進められたが,司法書士に限らず,紛争解決手続に関与することは,いずれかの場面で法律事務に該当する可能 性は高く,該当の有無そして罰則の適用をすべて事後チェックに委ねることは,ADR制度発展の大いなる足枷となりうる。
ADR手続であるか否かの外観的基準をどこにおくか困難な点もあろうが,一定の基準の下で民間ADR機関の実施するADR主宰業務については,弁護士法第72条の適用除外について特段の措置が必要であると考える。
さらに,ADR代理においても,ADR代理人として活動するに当たり,その資質や経験等を評価する一定の基準の下で,弁護士法第72条が適用されないものとする措置も必要である。
なお,司法書士ADRセンターを開設運営するに当たって,この問題を主宰業務及び代理業務に分けて検討し,後記のとおり要望事項としてとりまとめた。

 

 

2 ADR認証制度
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ADR制度の定着には,ADRに対する国民の安心が重要であり,国民がADR機関を選択する一つの基準として任意の選択による「認証」制度を導入すること に賛成する。ただし,認証制度がADR制度の「多様性」「柔軟性」等の特質を阻害することのないよう特段の配慮をすべきである。
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従来事前確認という議論があり,時効中断効等の法的効果や罰則規定の適用除外は,一定の条件を満たす場合にのみ認められるとされることが望ましい。一方で ADRは,多様で柔軟そして時として迅速で低廉であること等がその特質とされ,これらの特質がADR制度導入の契機とも言える。さらに,利用者の安心を担 保しうる認証制度の導入は,官に対する信頼の厚い国民性にも合致するものと思われる。
そこで,特質を失わせることなく,規制につながることなく,ADRの信頼を増すための認証制度の導入に賛成するものである。
なお,司法書士ADRセンターを開設運営するに当たって,認証に関する問題を検討し,後記のとおり要望事項としてとりまとめた。

 

 

3 法的効果(時効中断効及び執行力等)の付与
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時効中断効は一定の明確な基準の下で認めるべきであり,執行力については,更に慎重な検討を要するものと考えるが,付与基準を厳格に規定し,他の法律との整合性も保ちつつADR制度の実効性を高める手段の一つとして限定的にでも整備すべきである。
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実際の運用において,時効完成直前のADR申し立てがそれほど多いものとは考えていないが,必要な局面で適切に利用できる制度整備は望ましい。他の手続と の選択の際にも,時効中断効の有無だけが基準となることは無いとしても,この効果がないことだけでADRが選択されないこととなっては基盤整備のあり方と して疑問を感じられるであろう。適切な運用管理ができる機関など,一定の基準の下で時効中断効が認められることは望ましい。
また,様々なADR 機関を利用する国民が合意の促進に理解を持ちつつも,合意の履行に不安を抱く場面もあり得る。特に当事者間に一定の力関係が存在する場合もそうであろう。 また,養育費や生活費等合意の履行が生活を支える基盤であることもあり得る。不履行時の速やかな合意実現は限定的運用であったとしても必要である。悪用さ れることのない厳格な認証等の要件が求められるとしても,一定のADR合意に終局的満足としての執行力が付与されること自体はADRの理念に反するもので はなく,整備に向けて更に前向きな検討を希望する。

 

 

4 裁判手続との連携の充実強化
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ADR制度の定着には,ADRに対する国民の安心が重要であり,国民が信頼を寄せるところの裁判手続との連携を密にした種々の手続を備えるべきである。
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ADRの理念を訴訟手続の代替物としてだけで捉えるべきでないことは承知しつつ,ADRも紛争解決を目指す手続である以上,裁判手続との役割分担は意識せざるを得ない。
そこで,ADR制度が国民に定着するためには,裁判手続とADR手続の利用選択を国民の自由な意思のみに委ねるのでなく,一定の場合にADR手続が裁判手 続との連携を密にした制度であることを明確にした手続を整備することも必要と考えている。例えば,裁判手続の中止制度,調停前置の例外化も当然に望ましい と考えており,現行法における付調停制度のような形態で付ADRとして活用することもADRと裁判手続の連携モデルのひとつであると考える。さらにその連 携を充実し強化するためには,ADR基本法において一定の金額以下の事件や相隣関係,家族親族間の紛争等については,ゆるやかなADR前置制度を採用し裁 判所が率先してADR制度の利用促進に熱心である姿勢を示すことが望まれる。

 

 

5 情報公開と義務及び倫理
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ADR制度の定着には,ADRに対する国民の安心が重要であり,国民がその選択に先立ち調査できる様々な判断材料を提供することは欠かせない。さら に,ADR制度を支える人々に求められるものとして,倫理感の醸成は,ADR機関に対する信頼を裏打ちするものと言え,これについても一定の基準となるも のを設けるべきである。
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ADRの利用促進のためには,開設機関・手続主宰者等に関して,多くの情報を利用者である国民に開示することが重要であろう。公開されるべき情報として は,開設機関の情報として,「実施場所・申立利用料等・取扱紛争の種類・時効中断効や執行力付与の有無・調停者の数」等々が考えられ,調停者に関する情報 として,「関連する資格・経験年数・得意とする紛争の種別・調停者としての研修の経歴」等は最低限公開されるべきであると考える。
また,ADR 機関側は,自らの機関が提供実施するADR手続が裁判手続と並び安心して選択される手続でなければならないことを理解する必要があり,諸規定を遵守し守秘 義務等が厳格に守られるよう手当てすべきであると考える。特に法的効果の付与を受けるADR機関においては,業務関与者の倫理規定制定等が当然に求められ るべきであろう。

 

 

【司法書士ADRセンター開設に向けた要望事項】

 

 

1 弁護士法第72条の適用除外の特例と主宰業務・代理業務

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司法書士ADR主宰業務においては,訴訟手続と異なり,その紛争の価額に関する取り扱い制限等は設けないものとすべきである。
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また,司法書士によるADR代理においては,対象となる範囲が司法書士法第3条及び第29条の業務範囲に限定されたとしても,その紛争の価額に関する取り扱い制限等は設けないものとすべきである。
(1) ADR主宰について
ADR主宰業務は,ADR基本法において骨格が規定されるところとなるであろうと思われる。そして,法的効果を付与する場合の「認証」の手続及び与えられ る効果に関しては,その詳細が不明である現時点において多くの疑問があるが,司法書士会が開設する組織的なADRセンターでは,その業務を円滑に進めてい くために必要と思われるすべての認証を受け,行い得るすべての紛争解決手段を採用する方向で,「どのような形で司法書士が参加するか」に関し「ADR主宰 業務形態」を検討している。
司法書士ADRセンターの対象となり得る事件は,現行司法書士法第3条及び第29条において認められる業務全体を前 提としつつ,その中でも特に相続や家事事件,その他成年後見に関係する事件や民事裁判手続は司法書士の主要業務であり,司法書士が関与する時期の前後にお いて関係当事者間で紛争に発展するものも少なくない。
当然のことながら,紛争の程度や対象となる財産の価額,関係当事者の範囲は事案毎に様々で あり,ADRの申立がされたと想定して着手時点で全体を把握することは困難であるとともに,訴訟と異なり訴額という観念を持ち込むことは,早期に円滑な実 施を求められるADR手続にはふさわしくないものと言い得る。
よって,司法書士ADR主宰業務においては,訴訟手続と異なり,司法書士法の範囲内という紛争の種別に関する限定がされた場合であっても,その価額に関する制限は設けないものとすべきである。
もちろん,運営に当たり,内部における倫理を含めた研修の充実や,苦情処理機関の設置,そしてそこに伴い寄せられた苦情等への速やかな対応等,さらには, 賠償責任保険制度の導入など,利用者の信頼を確保する手段を万全に講じながら,組織の自覚と責任の上に立ち実施する所存である。

 

 

(2) ADR代理について
ADR制度そのものが当事者の納得と満足を図ろうとする制度であることから,原則的に当事者の出席によって実施されるべきものと考える立場からは,ADR 代理の利用頻度はさほど高くなく,ある意味では極めて例外的なケースにおいて利用されると考えられている。しかし,かかる代理は,例外的であるが故に特殊 な場面に即応出来るだけの法的知識と実務経験を求められる可能性も存するものと考えられる。
さらに,ADR代理の権限を使用して,ADR機関に おける調停開催日以外においても協議や交渉が行えることとなれば,いわゆる示談行為との差異は判断しにくく,法違反となる場面が予想される。したがっ て,ADR代理のあり方は,かなり慎重に検討されることが望ましいものと考えられる。

 

 

私たち司法書士は,これまで民事司法の現場におい て,国民に身近な法律専門家として日常生活における紛争問題に取り組んできた。したがって,日司連は,自らの監督下において実施される司法書士ADRセン ターにおいては,紛争種別に応じてADR代理人として十分に機能することができると考えており,その対象業務範囲は司法書士法第3条及び第29条の業務範 囲に限定された場合であっても,その紛争の価額による制限を設けるべきではないと認識している。

 

 

2 ADR認証制度と司法書士ADRセンター
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○ 日本司法書士会連合会が認証機関として認証を得た場合,その認証の効果 により,連合会傘下の都道府県等に所在する単位会を「従たる事務所」とし て活動することが可能となる認証制度として頂きたい。

 

 

○ 認証が紛争の種別に応じたものとなる場合,一機関が紛争種別毎に複数の 認証を取得することを可能とする認証制度として頂きたい。
日司連は,「認証」という明確な基準の下で許される最大限の法的効果の付与を受け,司法書士ADRセンターを実施しようと考えている。そこで,「認証」に 関して,日司連の構想に基づく司法書士ADRセンターを開設するための問題点に関連し,次の理由によって標記のとおり要望するものである。
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日司連は,日司連がADR機関としての一つの認証を受け,日司連を主たる事務所とした司法書士ADRセンターを開設し,全国50の各司法書士会が従たる事務所として司法書士ADRセンターを開設するという構想を立てた。
つまり,司法書士ADRセンターは,全国の司法書士会をネットワーク化して活用し,一つの紛争において関係当事者が全国各地に点在し住居所を定めている場 合であっても,それぞれが長距離を移動することなく,近くの司法書士ADRセンターで電話やインターネットテレビ電話などのIT機器を活用した遠隔地間 ADRを実施する計画を進めている。その際,全国50の司法書士会ネットワークが一つでも欠けることはこの実現に障害となると考えている。
したがって,日司連が開設機関としてひとつの認証を受け,その認証の効果が全国の司法書士会におかれた司法書士ADRセンターにも及ぶことにより,認証機関として活動しうるような認証制度が望まれる。
また,日司連は,当面,限定的な紛争種別による事件を取り扱うADR機関開設を検討しているものの,全国各地の司法書士会においては,それぞれの判断及び 地域の特性に応じた紛争種別でのADR機関を開設する動きも予想される。その場合,日司連は各司法書士会の活動を支援することとしており,別途の紛争種別 による事件を取り扱うための認証を取得する道が閉ざされることのない認証制度を求める。
つまり,認証を受けるにあたり,その取り扱い分野が届出 事項となり紛争の種別に応じた認証制度となる場合において,従たる事務所として届け出のある機関が,別途の紛争種別について新たにADR認証を希望する際 「既に従たる事務所として届け出がある機関ないし取り扱い分野であること等の理由により(重複)認証申請が受理されない」等のない制度として頂きたい。

以上

 

 

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(参考資料)

ADR基本法(仮称)に対する司法書士会の5つの期待と3つの懸念

日本司法書士会連合会

 

 

この資料は,司法書士会内でのADRに関する検討過程を反映した意見表明をするにあたり,個別の論点に対する意見表明ではなく,ADR制度の全体像に対するイメージと問題点という視点で捉えようと試みたものである。
個別には言葉足らずの誤解を招くおそれも感じつつ,また,言い尽くせない部分が多々あるものの,ただADR制度の発展を願う気持ちでまとめたものであり,参考としてご覧いただければ幸いである。

 

 

1.国民に身近な紛争解決機関として大いに発展することの期待
裁判手続以外に紛争解決手段があることは,国民にとって選択肢が増えることであり,好ましいことは間違いない。この手続を安心して利用出来る基盤整備がされることにより,様々なコミュニティでまず自律的紛争解決を図ろうとする気運が高まることも期待される。

 

 

2.国民の安心を増し得る「認証」制度導入に対する期待
利用者は,規模の大小・費用の有無・距離的な問題等様々な選択基準があり得る「ADR機関」から「安心して利用出来る機関を選別したい」と願うであろう。この願いを「手続準則や設置団体,その他の情報」を公開することによりかなえることが期待される。

 

 

3.裁判手続との親和性が更なる安心と利用増加に繋がる期待
裁判手続中にADR手続へ移行することが可能となり,或いは裁判に先だって裁判所のあっせんにより裁判所調停同様の手続によりADR手続が利用出来ることは,国民の利便性向上にかなうものであるとともに,ADRの発展を支えるものであると期待する。

 

 

4.法律扶助制度の適用によりADRへのアクセス保障もされた社会への期待
紛争を抱える者は,ADR手続で紛争解決することにより裁判手続が不要となりうる。裁判まで進めば利用可能な紛争に対しては,法律扶助が利用可能とされることで,制度の発展に明るい光が差し込むのであり,ここに期待する。

 

 

5.司法書士等各専門分野を十分に活用した紛争解決手続への期待
日本の法律手続には,多くの専門家が関与し,それぞれに深い知識と経験を有している。これを活用することは,国民の深い安心と納得を得る為に欠かせない前提である。十分な活用が図られることを期待する。

 

 

6.裁判外紛争解決手段への裁判手続的発想導入の懸念
ADRは,裁判外紛争解決でありながら,司法の代替的機能を強調して期待する考え方から,裁判の各種手続概念が持ち込まれかねない。このような視点はADR制度に対する信頼感を抱かせる反面,自律性・自主性をそこなう恐れもある。
よって,一部においては代替的でありながら,一部においては司法手続と異なる手続と理解されるよう規定すべきである。

 

 

7.弁護士法第72条の教条的適用への懸念
弁護士法第72条の法益を理解しつつ,ADRを機能不全に陥れるような制限は排除すべきである。同条も20世紀における保護重視司法の名残ともいえ,自律 的紛争解決の時代を創ろうとし,国民の選択肢を拡大しようとする司法制度改革において,英断を持って適用範囲の縮小を図るべきである。

 

 

8.「認証」制度の緩やかすぎる或いは厳格すぎる適用への懸念
認証が極めて簡単に受けられるものであることは,違法行為につながる機関を認証するなど認証への信頼と国民の安心への期待を裏切ることである。また,逆に 認証が極めて厳格な手続となることは,様々な専門的知見を活用する場面において,ADRの発展を阻害するものとなりかねない。
さらに,認証と共にADR制度に対する行政の関与にも,近すぎず遠すぎずという適正な距離が望まれる。常に検証を加えつつ,信頼の確保と維持に力を尽くすべきであろう。

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