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意見書等

2010年(平成22年)09月10日

法務省民事局参事官室 御中

「児童虐待防止のための親権に係る制度の見直しに関する中間試案」に関する意見書

日本司法書士会連合会

 

 

1 はじめに
日本司法書士会連合会(以下、「連合会」という)は、標記中間試案の意図するところが、近年多発し、増加の一途をたどる親などの保護者による児童虐待に迅速、かつ、的確に対処するためであることと認識し、この動きにまずもって賛同するものである。
さて、今般の見直しは、基本法たる民法の親権制度の改正であり、親権の制限については、今まさに児童虐待行為が多発している現時点のみをとらえるのでは なく、虐待を受けている状態から解放され、その後一定の年月を経た後の児童の状況把握とそれへの対処を含め、その他児童虐待以外の様々な事態を検討しつ つ、総合的に親権制度を議論をすべきである。
以下の問題意識を中核として意見を述べる。
1 子どもの尊厳の確保、人権尊重の視点が何よりも重要視されなければならない。すなわち、子どもの権利を守り、子どもが虐待されたり尊い生命が失われた りすることのないように、現行の親権制度を見直す必要があるのは当然のことである。しかし、子どもは父母の愛情が溢れるあたたかい家庭で育つのが理想であ り、親子の再統合を念頭においた親権制度の見直しでなければならない。
2 現行制度の親権は、父母が未成年の子に対して有するさまざまな権利義務の総称であるとされている。民法の第4章「親権」における第818条第1項及び 第2項の文言上「親の子どもに対する権利」とも読み取れ、これが、「しつけ」や「教育」の名のもとに行われる虐待事例の温床になってきた感は否めない。
したがって、その文言を見直し、親権はあくまでも子どもの健全な育成のための行使すべき「親の義務」であると位置づけ、その旨条文上も明確にすべきである。
3 親権行使の対象となる子どもといっても、乳児、幼児、児童そして18歳以上の未成年者等さまざまである。児童虐待を防止するための親権制度を見直す場 合、特に親子の再統合が必要な状況を重要視する場合と施設等を退所する子どもが就職やアパート等を賃借する場合等では、親権を制限する際の枠組みや制度の 設計は当然に異なるので、慎重に判断しなければならない。

 

 

第1 親権制度に係る制度の見直し
1 親権の制限の全体的な制度の枠組み
(1)親権の全部についての喪失制度及び一時的制限制度
【意見】 親権の全部の喪失制度のほか、親権の全部の一時的制限制度を設けることに賛成する。
【理由】 親権喪失後の親子の再統合を考えた場合、現行制度にはない親権の制限の期間を限る制度を設けるのが相当である。現に、平成20年1月から平成 21年12月までの2年間に全国の家庭裁判所で終局した親権喪失事件のうち(最高裁判所事務総局家庭局において把握できた事案による)認容されたのは全体 の17.9%であり、却下14.3%、取下げ62.2%、その他・不明5.7%となっている。容認された事件の割合が低い理由のひとつとして親権の制限が 硬直的であることが考えられるので、現行制度の親権の制限の在り方については見直す必要がある。

 

 

(2)親権の一部制限制度
【意見】 甲1案もしくは甲2案について賛成する。
【理由】 乙1案又は乙2案については、監護権のみを制限しても財産管理権を制限しな いのであれば、その管理権の不行使により子どもの利益が害される場 合があり、結局のところ、監護権のみの制限では、当初の目的は達成できないおそれがある。そして、このような事態に対処すべく管理権と監護権の両者を制限 することは、親権の全部制限に他ならないとすれば、あえて監護権の制限制度を設ける実益が乏しいように思われる。実例では、管理権と監護権は密接に関連し 重複する場合が多いと思わるので、監護権の制限制度を設けることには更なる検討が必要である。
丙案では、審判において親権のどの部分を制限するのかを特定するため、国家による家庭への介入が過度になり相当でないと考えられる。また、その特定に時 間がかかり審理が長期化することも予想されるなどの問題点がある。丙案のように親権の一部を個別具体的に制限する案には更に慎重な検討が必要である。
よって、監護権の一時的制限制度を設けることには、慎重な検討が必要であり、甲1案もしくは甲2案がふさわしいと考える。

2 親権の制限の具体的な制度設計
(1)親権の制限の原因
ア 親権の喪失の原因
【意見】 C案に賛成する
【理由】 虐待事案だけではなく、親権を制限しなければならない状況としては様々な場面が想定される。また、「親権の喪失」は親権者の権利を制限する場面 であるので、その重大性に鑑み、制限するだけの根拠として親権者に対する非難可能性や帰責性も判断の要素とすべきである。
しかしながら、親権者が精神上の障害等により子を適切に養育することが著しく困難である等の事案では例外的に親権者に対する非難可能性や帰責性の要件は不要とすべきである。
これに対し、親権を一時的に制限する事案では、親子の再統合の可能性があることを考慮しての措置であると解されるが、それよりも虐待事案における虐待を 受けた子どもの生命身体の安全が最優先課題であり、親権者に対する非難可能性や帰責性の判断に手間取り子どもの保護が遅れるということがあってはならない ので、親権者に対する非難可能性や帰責性の要件は不要とすべきである。

 

 

(2)親権の一時的制限の期間
【意見】 A案に賛成する。
【理由】 児童福祉法28条2項の措置期間と同一の2年を超えない範囲が適当であると考える。親権の一時的制限の期間については、子の利益を優先に考え、親権者に対する指導措置の効果等に照らし、また子の心身の状態等を考慮して判断すべきである。

 

 

(3)親権の制限の審判の取り消し

【意見】 親権の制限の審判は、その原因が消滅したときは、家庭裁判所がこれを取り消すことができるものとすることに賛成する。
【理由】 原因が消滅したときは、速やかにこれを取り消すべきである。

 

 

(4) 親権の制限の審判又はその取消しの申立人
【意見】 親権の制限の審判の申立人に、子を加えることに賛成する。
親権の制限の審判の取消しの申立人に、本人及びその親族、児童相談所長を加えることに賛成する。
【理由】 子を親権の制限の審判の申立人に加えることについては、慎重に考えなければならない問題であるが、申立てに及んだ経緯や申立て時の子の判断能力 等を考慮した上で、限定的に子を申立人に加えてもよいと考える。但し、児童虐待の事案において、子を申立人に加えることで、かえって親族等からの申立てに 支障をきたす可能性があり、この対策が必要であると考える。また、申立て後、子自身が親権喪失の申立てをしたことによる絶望感等も予想され、子を申立人に 加えるかどうか慎重に検討しなければならない課題であり、子を申立人に加える場合は、申立時の面談や申立後の子に対する精神的なフォローが必要である。
しかしながら、例えば、大学進学の際に父親から母親へ渡されていた養育費を大学進学費用に充てることを希望していた子と母親の意見の相違から子が親権喪 失を弁護士に依頼した事例(「社会的養護とファミリーホーム」(福村出版)P89)があるが、子が申立人になることができず、申立てが相当困難であったと 思われる。
このように十分な判断能力を有する未成年者に対しては、子どもの自己決定権の尊重の観点から、一定の条件の下に申立権を認めるべきである。

 

 

3 同意に代わる許可の制度
【意見】 意見を留保する。
【理由】 児童養護施設退所時の成人間近な者に対してあえて未成年後見制度という重たい制度を使用するまでもない事例(例えば施設退所時に締結するアパー トの賃貸借契約等の特定の事項だけに支障があるという事例)があるのも事実であり、このような場合に同意に代わる許可の制度が使えれば便利である。しかし ながら、特定の事項に関する家庭裁判所の同意に代わる許可の制度の導入は、微細な事項に関してまで公権力の家庭への過度の介入を許す恐れがあり慎重な検討 が必要である。また、成人間近な上記のようなケースは成人年齢が18歳に引き下げられれば解決する問題であり、成人年齢の引き下げの議論の動向を見据えな がら検討すべき課題と考える。

 

 

第2 未成年後見制度の見直し
1 法人による未成年後見
【意見】 法人を未成年後見人に選任することができるものとすることに賛成する。
【理由】 未成年後見人を自然人に限る必要はないと考える。未成年者の身上監護に重点を置いている為に、現行制度では、未成年後見人を自然人に限っている と思われる。しかし、未成年者の親族以外の者、例えば法律専門家等の第三者が未成年後見人に就任している場合、未成年後見人が未成年者を引き取って現実に 監護するとは考えづらく、主な職務は財産管理となり、現実の監護は施設長または里親が行っている場合がほとんどであると思われる。
一律に法人を未成年後見人に選任しない合理性はないが、未成年後見人の受け皿となる法人の要件などを定めることも検討すべきである。

 

 

2 未成年後見人の人数
【意見】 複数の未成年後見人を選任することができるものとすることに賛成する。
【理由】 複数の未成年後見人の方針に齟齬が生じることが未成年者の利益の観点から相当でないとの理由から現行制度では一人でなければならないとされてい るが、それだけの理由をもって一概に相当でないとは言えないと考える。未成年後見人が就任しなければならない事案は、複雑なケースが多く、一人に限定して しまえば未成年後見人の負担が大きくなり過ぎ、引き受ける者が限定されてしまう状況がある。
また、専門分野の異なる複数の専門家を未成年後見人に選任することが可能になれば、未成年者の利益を優先とした未成年後見人が職務を遂行できると考える。
また、児童虐待の場合において、その児童の健全な育成のためには、他の児童以上にその精神面や身上面においてケアが必要であり、その意味において複数の未成年後見人選任が適するケースも存在するので、複数の未成年後見人を選任することができるようにすることに賛成する。

 

 

第3 その他
1 子の利益の観点の明確化
【意見】 子の利益の観点を明確化することについては賛成する。
【理由】 親権は、子の権利を制限するものではなく、子の利益のために行わなければならない。
民法の親権に関する規定においても、子の利益の観点をより明確にした条文を設けるべきである。例えば、民法第4章第1節総則の規定において、818条(親権者)の条文の前に子の権利規定を新たに設けることを提案する。

 

 

2 懲戒
【意見】 民法第822条第1項の規定は削除すべきであるとの意見に賛成する。
【理由】 懲戒権を理由に児童虐待を正当化しようとする親権者がいることや懲戒場なるものが存在しないことなどからこの規定を削除すべきである。

 

 

 

補足意見
1. 里親制度について
わが国での社会的養護サービスを必要とする児童の9割が施設入所であり、里親に委託されているのは1割にも満たない現状である。一方、イギリスやアメリ カでは家庭的養護が主流とされている。虐待により、パニックや暴力等心理的問題を抱えた児童に対しては、里親委託による養育は困難であろうし、施設を否定 することはできないが、家庭で正しい愛情と知識と技術をもった環境下で親との愛着のもとで育てることが望ましいのは事実である。しかし、これが困難な家庭 も少なくはなく、そのような場合、少しでも家庭的な環境下で養育される受け皿を充実すべきである。
家庭的養護としての里親制度には、養育里親、親族里親、短期里親、専門里親等があるが、里親制度の認知度が低い。子どもの情緒が安定し、家庭の温もりを 感じるためには、一対一で愛されて安心や信頼の感情を持つことが大切であり、その後の成長に何よりも大切である。その為には、里親制度の拡充及び整備がさ らに必要であろう。
さらに言えば、養子縁組を前提に里親登録をしている里親の場合には、里親の適格性等を判断した上で、もう少し積極的に養子縁組里親を利用してもよいのではないか。もちろん、子ども利益を最優先してのことである。
また、全国の児童相談所が平成21年4月~7月に対応した児童虐待のうち、親の同意なしに一時保護した子どもの4割以上は虐待開始から一時保護までに1 年以上かかっていたことが、全国児童相談所長会の調査で分かった(平成22年8月31日付 毎日新聞より)。さらに、この調査によると、「深刻な虐待を受 けた子どもほど保護を希望する割合が減ることも判明した。」としている。児童虐待等により親権を制限された後の受け皿を充実させるとともに、虐待の発見・ 保護に何故これだけの時間を要するのかを早急に調査し、改善されるよう願う。「深刻な虐待を受けた子どもほど保護を希望する割合が減る。」というのは、そ ういった子どもが受けた身体的にも心理的にも大きな傷を負い、正常な判断ができない状態までに追い込まれているのではないだろうか。

 

 

2. 児童相談所、児童相談所長について
平成22年5月の全国児童相談所長会の「親権制度に関するアンケート調査」結果報告によると、親権と施設長(里親)等の権限との優先関係について、施設 長が優先することについては約67%の児童相談所長が賛成で、里親が優先することについては約40%の児童相談所長が賛成であるとの回答である。反対の理 由としては、虐待事件への対応等に忙殺されている児童相談所の現状から、業務量が限界に近く、さらに新たな業務を担うことは無理であるということのようで ある。児童相談所あるいは児童相談所長のあり方については、さらに検討が必要である。

 

 

3. 国や地方自治体の責務について
虐待を受けた児童に対しては、親権に関する制度を見直すだけでは不十分であり、児童の心のケア等、児童を保護すると同時に自立の為の支援が必要である。 虐待を受けた後に保護者との関係が絶たれた児童が児童養護施設等施設を退所する際に、住居の賃貸契約や教育を受けるための資金の確保や就職に際しての保証 人の確保など多くの困難に直面し、住込み形式の職業に就職先が偏りがちある現状がある。こうした児童に対しては、国や地方自治体が、居住の確保、進学や就 職の支援などの自立支援の施策を講じなければならない旨の通知(「身元保証人確保対策事業の実施について」(平成19年4月23日雇児発第0423005 号)がされているが、通知に留まらず、国や地方自治体の責務として、さらに積極的に支援策を講ずるべきである。

以 上

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