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意見書等

2008年(平成20年)07月17日

法教育推進協議会 御中

法教育における私法分野教材作成に関する意見

日本司法書士会連合会
法教育推進委員会

 

現在貴協議会において検討が進められている私法分野の教材作成にあたり、当委員会は、「日常生活における身近な問題を題材にするなどの工夫をし て、契約自由の原則、私的自治の原則などの、私法の基本的な考え方について理解させるとともに、企業活動や消費者保護などの経済活動に関する問題が法と深 くかかわっていることを認識させる」との私法分野についての方向性に則りつつ、さらに現実の市民生活との接点を重視すべきであるとの立場から、下記の事項 について意見を提出致します。

 

 

1 不動産と動産の相違の視点(所有・登録制度・契約)
2 個人間取引と会社間取引など商行為取引の視点(自然人と法人・会社の責任を含む)
3 インターネット上での取引や電子マネー等の現代の特有の取引の視点
4 多重債務問題・悪質商法問題等に関する消費者問題の視点(契約自由の原則から消費者保護へ)
5 インターネットの掲示板等の書き込みの問題を通して、ルール作りとモラルの構築の視点
6 成年後見制度を中心とした意思能力とその補完についての視点

 

以上

 

第1 不動産と動産の相違の視点
1 私法の基本原則の1つである「所有権絶対の原則(財産権不可侵の原 則)」の理解は契約・不法行為等の理解の基礎をなすものである。通常の動産は特に登録制になっていない(原則所持人が所有者)が、不動産や自動車は、誰が 所有者となっているのか国の登録簿(不動産については登記事項証明書・自動車については自動車車検証等)に登録していることなどを例にとって、なぜ、物に ついては、登録制のものとそうでないものがあるかを考えるなどして、「所有する」とは、どういう意味があるのかを考えさせ、所有権の理解を深める(理解度 が進行すれば占有権等についても)。
2(事例案:身近にある売買契約の場面を通して)
ア:コンビニでジュースとシュークリームを買う → 契約書は作らない
イ:家を買う → 契約書を作成する
アとイでは、同じ売買契約なのに、書面を作る契約と作らない契約がある。
その異同を比較し、契約が成立するとは、契約が成立したらどんな権利と責任が出てくるのかを、イの不動産売買契約書を参考にしながら、アの契約書を実際に 作成させる。アの契約について、一方的に契約を解消できる場合があるのか、他にどんな理由があれば、一方的に契約解消できるのかなど、個々の事例を通じて 検討し、契約行為を理解させる。

 

第2 個人間取引と会社間取引など商行為取引の視点
1 個人間取引は、私法基本原則の1つである、「契約自由の原則」に基づいている。では、個人間取引・会社間取引・個人会社間取引の異同を踏まえ、適用法の違いはどのような価値から導かれているのかを理解する。
子ども達は、学校を卒業し必ず何らかの集団(会社)に属し(又は自ら起業し集団を率いていく)、社会生活に携わる。個人間取引は、「民法」が適用される が、会社間取引は、「商法」が適用される。同じ取引(契約)なのに、何故違う法律が適用されるのかを考えさせ理解させる。さらに、会社(株式会社等)を 作った際は、国の登録簿(商業登記簿)に搭載しなければならない点を通して、個人と法人の相違を理解する。
個人間取引と会社間取引の違いを考え理解させることにより、将来的な自分の立ち位置がより明確に見えてくるのではないか。
2(事例案:会社の設立・会社の取引・会社の責任)
(1)「自分が大人になったとき、会社を作ろうと考えた。」ことを想定し、生徒自身に実際に、会社の商号・目的等を決めてもらい、会社を作る際には、どのような知識が必要なのかを検討してもらう。
(2)会社を作り、商売をする(他社と取引を始める)ということは、法律上どのような行為になるのか、また、気をつけなければならない点は等を考える。
(3) 会社間の取引は、個人間の取引とどこが違うのか、会社を立ち上げた際、正社員やアルバイトを雇う。雇用契約の理解。自分が雇う側だったら、社員にどうして 欲しい?雇われる側だったら、会社にどんな要求をしたい?それぞれの立場から、言い分を考えてもらい、トラブルになりそうなところを挙げてもらい、解決方 法を考える。雇い主側に立った場合の労働者に対する意見と、労働者側に立った場合の雇い主に対する意見を考えてもらう。対等な当事者間の契約が基本だが、 立場の強弱によって一方が不利益を受ける場合にどのように調整するか、どのような調整方法があるかを考えてもらう目的及び趣旨。バランスのとれたものの見 方を養う。

 

第3 インターネット上での取引や電子マネー等の現代の特有の取引の視点
1 今後インターネット取引が主流になると、電子マネーが台頭してくる。現在の状況でも、子供達に十分な金融教育が行われていないうえ、金銭がバーチャル化することにより更にリアリティがなくなる。
教育現場で今後、金融経済教育が行われることになると考えられるが、それとともに電子マネーについての教育も必要となってくるのではないか。電子マネーを知ることは、子供達の将来の人生設計においても、さらに道徳的にも必要なことである。
2(事例:インターネット取引・カード決済)
(1)インターネットや携帯サイトで、トラブルになっているものを生徒に考えてもらい、その解決方法(対処法)を検討してもらう。
ex ID・パスワードの不正取得
ワンクリック詐欺
オークション次点詐欺
掲示板での誹謗中傷
ウイルスメール
スパイウエア
(2) 電子マネー(オサイフケータイ等)やカードを使用して買い物をするということは、法律的にどのような構造になっているのかを理解してもらい、実際、電子マ ネーやカードで買い物をする際気をつけなければならないことは何か、を考えてもらう。現金を手元に持たない取引においても責任が生じること、さらにはその 危険性を理解する。

 

第4 多重債務問題・悪質商法問題等に関する消費者問題の視点
1 悪質商法被害の予防方法を学ぶことも さることながら、社会に溢れる契約の中で、おかしい契約だと気付くようにできることが目的及び趣旨。悪質商法被害に陥らないように注意喚起が一番の目的で あり、また同時に、被害者にも、加害者にもならないようにする視点も重要だと考えられる。
2 契約自由の原則から消費者保護への修正。
(1) これまで行われてきた消費者教育においては、消費者保護として、悪質商法の被害に陥らないように手口を紹介したり、また、陥った場合の対処法についての授 業をしていたと思われる。また、金融教育・多重債務問題としては、多重債務に陥らないための留意点、陥った場合の対処法は授業をしてきたように思う。
(2)しかし、法律そのものや、悪質商法の手口などは刻々と変化しているため、最新の情報などは専門家が出張講座などを行い、消費者保護の目的・意義を通して、社会に生きる消費者としての自覚や企業のモラル・法令遵守についての授業を行う。
(3)また、消費者問題の被害者に対して、世間的に偏見をもつ人はまだまだ多いことも事実であろう。例えば、悪質商法の被害者に対しては、詐欺的手口に引っかかる方にも問題があるのではないか。多重債務者に対しては、皆ただの怠け者であるなど。
そのため、被害者は、法律に規定されているから保護をする・保護ができるというだけではなく、それぞれ個々人の生活状況は違うものであり、自分とは違う状 況の人に対して理解をしようとすることができる人を育てる視点が重要であり、多重債務者・ホームレス・悪質商法被害者・ヤミ金被害者等に対する偏見を緩和 するように考慮する。
3 発達段階に応じた展開
私法分野の授業をする場合で、全員が高校進学するわけではないので、やはり中学までに、 全てを一通り学習する必要があるように思われる。卒業すると、途端に、契約社会へと放り出されることになってしまい、今まで、契約などについて知りうる機 会をほとんど得られなかったことが原因で、避けられたかもしれない不利益を被る事例が発生してしまう可能性がある。契約の原則のみで授業を終えてしまう と、原則のみの印象が強く、例外に対して、抵抗感を感じてしまうのではないかと思われる。例えば、借りたものは返すという原則だけであると、返せなくなっ た場合どうしてよいかわからなくなってしまい、路上に出てしまうなんてこともありうる。

 

第5 インターネットの掲示板等の書き込みの問題を通して、ルール作りとモラルの構築の視点
1 現在、 インターネット掲示板への誹謗中傷の書き込みにより、被害を受けている学生も多数存在する(ネット掲示板へ誹謗中傷を書き込みされた生徒が、学校を辞める 事態も数多く発生している)。インターネット取引は、匿名性が高いため、子供のみならず使用するもののマナー、違法な使用方法をした場合、社会的にどのよ うな行為としてとらえられどのような刑罰があるのか。それとともに、被害者の人権はどうなのか等も考え理解させることが必要である。インターネット上の不 用意な書き込みが、人権侵害にあたる場合もあることを知ってもらう。
また、国内のインターネット普及率は、70%を超えようとしている。私たち の生活は確かに便利になり、インターネットの効用も数えれば枚挙に暇が無いことも事実だが、ここ10年程の日本におけるインターネットに関するトラブル、 また、インターネットを通じての事件も右肩上がりに増えてきている。インターネットを通して社会とつながることは、「おとな」だけの範疇ではなくなってき ており、小学校の低学年頃から、その仕組みは解らないながらも影響を受けている。子どもたちの好奇心は旺盛で興味があれば、どんどん操作機能を覚えてい き、物事の善し悪しの分別が未熟なままで、「おとな」の目の届かないところで、いろいろな情報を得てしまう。
こうした子どもを取り巻くネットの実態を大人はきちんと理解し、早い段階からのネットに対する教育の必要性が急務であり、ネットにおける、「ルール作り」と「モラルの構築」のための法教育を考えなければならない。

 

第6 成年後見制度を中心とした意思能力とその補完についての視点
意思を形成する前提としての能力に ついて、判断能力が未発達だったり低下してしまうと、どのような問題が起こるか考える必要がある。判断能力の低下や未発達を補う必要性を認識してもらい、 高齢者の問題を未成年の問題と比較してもらうことによって、遠い将来のことではなく、身近に感じてもらう目的及び趣旨。未成年者も、法律によって保護され ている。そのため、法律を守らないことは、自分達を保護している法律も機能しなくなるかもしれない、ということにも気付くきっかけとしたい。
さらに、支援を必要とする人々にかかわる市民活動へ目を向ける契機とすることも可能であろう。
・ 本人(被後見人、被保佐人、被補助人)の状況
・ 携わる関係者(介護士、社会福祉士等)との関係
・ 市民後見人養成講座受講後の人たちとの関わり合い等

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