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意見書等

2009年(平成21年)04月15日

厚生労働省 老健局計画課 認知症・虐待防止対策推進室 御中

「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律の改正提言」

日本司法書士会連合会
社団法人成年後見センター・リーガルサポート

 

 

Ⅰ はじめに
(1)改正の必要性
高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律(以下「本法」という)は、平成17年11月に成立し、平成18年4月より施行され、まもなく3年を経過しようとしている。本法は、高齢者の尊厳の保持という理念のもと、高齢者の保護と養護者の負担軽減を図ることを目的とし、高齢化が進むわが国において高齢者虐待に対して注意喚起、体制整備等を促した点については大変意義深いものである。しかし、規定の抽象的表現による解釈の問題点や、「平成19年度 高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律に基づく対応状況等に関する調査結果」(以下、「平成19年度厚生労働省調査結果」という)をみても、本法の改正の必要性がうかがわれる。
本法附則3項には「この法律の施行後3年を目途として、この法律の施行状況等を勘案し、検討が加えられ、その結果に基づいて必要な措置が講ぜられるものとする」と規定されているが、本法は議員立法による制定のためか、法改正作業がすすんでいないようである。
そこで、本法第28条において「高齢者虐待の防止及び高齢者虐待を受けた高齢者の保護並びに財産上の不当取引による高齢者の被害の防止及び救済を図るため、」成年後見制度の利用促進が定められており、我々司法書士が、平成12年4月の成年後見制度施行以来、同制度の発展のため相談の受け皿として、成年後見人等として活動してきたこと、さらに、高齢者の消費者被害に対応し、また、多重債務問題等に積極的に活動することにより、高齢者にかかわる実務に関与してきたことを踏まえ、本法の改正を提言するものである。

 

 

(2)改正の視点
本法第1条の目的規定には、「高齢者虐待防止等に関する国等の責務」、「高齢者虐待を受けた高齢者に対する保護のための措置」、「養護者に対する支援のための措置」等を定めることにより、高齢者虐待の防止、養護者に対する支援等に関する施策を促進し、高齢者の権利利益の擁護に資することを目的とすることを規定している。
本改正提言は、この目的規定の理念である「高齢者の尊厳の保持」を実現するために、更なる高齢者虐待防止に必要と思われる点を、以下の視点でとりまとめを試みた。それは、
① 高齢者虐待の定義を見直すこと。
② 国・都道府県・市区町村の連携を明確化すること。
③ 通報、立入調査等を児童虐待防止法の規定と比較して検討すること。
④ 成年後見制度の更なる利用促進が高齢者虐待防止に必要であること。
という視点である。

 

 

Ⅱ 法改正提言項目

 

 

1.第2条(定義)について

 

 

(1)「高齢者」の定義について
(2)「セルフ・ネグレクト」について
(3)「養介護従事者等」の範囲の見直しについて

 

 

2.国・都道府県・市町村の連携の明確化

 

 

(1)第3条(国及び地方公共団体の責務等)について
(2)第6条(相談、指導及び助言)及び第14条(養護者の支援)について
(3)第16条(連携協力体制)について
(4)第19条(都道府県の援助等)について
(5)第25条(公表)について

 

3.通報及び立入調査等について

 

 

(1)通報義務者の範囲について
(2)養介護施設従事者等による高齢者虐待に係る通報について
(3)立入調査の要件について
(4)立入調査権(面接要求、臨検、捜索)について
(5)面会制限等について

 

 

4.成年後見制度の活用について

 

 

(1)利用促進の為の市町村長の役割と経済的措置
(2)広報・普及活動の実施

 

 

5.障害者虐待防止法について

 

 

Ⅲ.法改正提言とその解説
1.(定義)について
(1)「高齢者」の定義について
「現行法第2条第1項」
この法律において「高齢者」とは、65歳以上の者をいう。
【提言】
本法第2条第1項は、本法の適用を受ける高齢者を「65歳以上の者」と定義しているが、少なくとも老人福祉法及び介護保険法の適用の対象となる者には本法が適用されることが明確になるよう、幅を持たせた文言の定義規定を置くべきである。
【解説】
本法第2条第1項の「高齢者」の定義は、同条第3項から第5項までに規定する「高齢者虐待」、「養護者による高齢者虐待」及び「要介護施設従事者等による高齢者虐待」の定義の基礎となるものであり、通報義務をはじめとする本法が定める様々な責務や義務の範囲を画する機能を有している。虐待の定義及び通報義務をはじめとする様々な義務等の範囲は、法律上明確に定めておくべきであり、本法の対象となる「高齢者」について明確な定義規定を置くことは望ましいことではある。しかし、その一方で、本法の規定に基づき市町村等が虐待の防止のためにとるべき施策や手続の対象者を、形式的に年齢によって限定してしまうことは、そもそも本法の趣旨に合致しているとは言えない。65歳未満の人であっても、65歳以上の人と同様に尊厳を保持した生活が保障されるべきであり、それが侵されているのであれば、65歳以上の人と同様に法により保護を受ける機会が確保されなければならないことは言うまでもない。また、通報義務をはじめとする本法の義務は、小さな虐待がエスカレートして取り返しのつかない状態になってしまう前に虐待の原因を発見し、市町村等が適切に権限を行使することによって、今後行われるかもしれない虐待を未然に防ぎ、被虐待者の権利を擁護する機会を幅広く確保するために定められているものであって、決して違反者に対して罰則を科す趣旨のものではない。
したがって、確かに、一般的には、義務の範囲を画する基準は、誰もが形式的に判断できる明確なものであるべきだが、本法においては、対象者を年齢により形式的に画することにより通報義務等の範囲を明確にすることには、それほど大きなメリットはないと考えられ、むしろ、通報義務等の範囲が若干不明確になっても、必要な場合に市町村等が適切に被虐待者の権利擁護を行うことができるような定め方をした方が、本法の趣旨には合致すると考えられる。
本法は、養護者による高齢者虐待に係る通報等を受けた市町村又は市町村長に対し、老人福祉法第10条の4第1項若しくは第11条第1項の規定による福祉の措置を講じ、又は、適切に同法第32条の規定により後見開始等の審判の請求をすることを求めるとともに(法9条2項)、要介護施設従事者等による高齢者虐待に係る通報等を受けた市町村及び都道府県に対し、老人福祉法又は介護保険法の規定による権限を適切に行使することを求めている(法24条)。
そして、老人福祉法は、福祉の措置の対象者を「65歳以上の者(65歳未満の者であって特に必要があると認められる者を含む。)」と定めている(老人福祉法5条の4、10条の3~11条)。また、介護保険法は、要介護認定又は要支援認定(要介護者又は要支援者に該当すること及びその該当する要介護状態区分又は要支援状態区分についての市町村の認定)を受けた被保険者が、介護給付又は予防給付を受けることができる(介護給付又は予防給付の支給の対象となる介護サービス又は介護予防サービスを受けることができる)と定めるとともに(介護保険法9条、18条、19条)、要介護認定又は要支援認定を受けることができる「要介護者又は要支援者」について、「①要介護状態又は要支援状態にある65歳以上の者」「②要介護状態又は要支援状態にある40歳以上65歳未満の者であって、その要介護状態又は要支援状態の原因である身体上又は精神上の障害が特定疾病(加齢に伴って生ずる心身の変化に起因する疾病であって政令で定めるもの)によって生じたものであるもの」のいずれかに該当する者をいうと規定している(介護保険法7条3項4項)。
実務上は、市町村は、65歳未満の人であっても一定の要件を満たしていれば、概ね老人福祉法上の措置を講じる運用をしているようであり、高齢者虐待に係る通報等を受けた場合についても、今までのところ、被虐待者の年齢(65歳以上かそれとも65歳未満か)によって特に対応を区別するような運用はしていないようである。しかし、現在の法の規定の仕方では、被虐待者が65歳未満である場合や、被虐待者の年齢がはっきり分からない場合には、虐待を発見した者が条文を形式的に解釈して通報をためらう可能性もある。したがって、通報義務の範囲をより広く定めることによって、虐待を発見した者がためらうことなくスムーズに市町村に通報をし、これにより市町村等が老人福祉法又は介護保険法の規定による権限をより適切に行使することができるよう、少なくとも、老人福祉法上の福祉の措置の対象者及び介護保険制度の対象者となりうる者については、本法にいう「高齢者」に該当することが明確になるように配慮して、「高齢者」の定義規定を定めるべきである。

 

(2)「セルフ・ネグレクト」について
「現行法第2条第3項」
この法律において「高齢者虐待」とは、養護者による高齢者虐待及び養介護施設従事者等による高齢者虐待をいう。
【提言】
本法第2条第3項の高齢者虐待の定義に「セルフ・ネグレクト(自己放任)」を含めて規定すべきである。
【解説】
近年、高齢者が生活をしていく上で必要なサービスなどの支援を求める行為を行わずに、外部からの勧めに対しても拒否するなどして、健康的な生活が維持できないいわゆる「セルフ・ネグレクト」が問題となっている。
人は、「健康で文化的な最低限度の生活」を日本国憲法で保障されており、また、セルフ・ネグレクトに至る要因として、疾病・障害・認知症のほか、失業・貧困という社会的要因が指摘されていることからも、深刻な社会問題としての認識に立ち、社会として積極的に関与すべきであり、公的機関による介入と適切な支援を提供することが必要である。
そこで、セルフ・ネグレクトを社会全体の支援対象とする上で、次の5点についての検討が必要である。
第1に、セルフ・ネグレクトに関する規定の必要性について、セルフ・ネグレクト状態の高齢者に対し、既存の法令により公的機関がその支援を行う手段として、老人福祉法第10条の4第1項・同第11条第1項による「やむをえない事由による措置」によって市町村が介入することが考えられ、既存の法令で支援が十分との議論がある。しかし、「措置」の要件が限定されており、それに該当する事例は限られることになる。また老人福祉法のほか他の法令においても措置に至るまでの発見と通報の義務規定と公的機関による状況確認に必要な規定が準備されていないことから措置の対象となる事例においても円滑な関与が保障されていない。また「措置」以外の柔軟な介入方法も必要であり、十分な対応が可能ではない。
このように、法の空白部分があり既存の制度では不十分であることから、セルフ・ネグレクトに光を当て支援のあり方を確立する必要があると考える。
第2に、本法にて規定すべきか否かについて、本法第2条第4項第5項において、高齢者に対する虐待の類型は支援すべき第三者による作為・不作為による権利侵害を規定しており、「虐待」といえば他者による行為が通常想起されるが、セルフ・ネグレクトの権利侵害者は自己であり、これをもって「虐待」の範疇に含ませることに議論の余地がある。
しかし、本法の趣旨は高齢者に対する権利侵害を防ぎ、予防することであり、そのために権利侵害の主体である養護者を支援することであることから、被虐待者と虐待者が同一の類型としてセルフ・ネグレクトを保護の対象としても本法の枠から大きくはみ出すことにはならない。
本来であればセルフ・ネグレクトのみに焦点を当てた法令を別途創設することが理想的だが、それは今後の検討課題とし、当初は本法に規定することが合理的と考える。
第3に、セルフ・ネグレクトの判断基準についてであるが、すべての支援を拒否するのではなく、本人にとって必要なサービス・支援のうち、あるものは支援を受け、あるものは支援を受けない、といったように、程度の異なる多数の事例において、何をもってセルフ・ネグレクトと認定するかの基準が問題となる。
基本的には、本人にとって必要な複数の支援について放任状態であり、本人の健康的な生活に支障が生じる可能性がある場合はすべてその対象とし、その支障の程度に応じて柔軟かつ段階的な通報・介入のあり方を規定するべきと考える。
第4に、意図性を要件に盛り込むかについて、アメリカのNCEA(National Center for Elder Abuse;全米高齢者虐待問題研究所)等によるセルフ・ネグレクトの定義によれば、判断能力の減退が見られない者が、その自由意志に基づく場合は、セルフ・ネグレクトの定義からは除外されている。
確かに「自己決定の尊重の観点から自ら選んだライフスタイルとして公的機関が介入すべきではない。」という意見は理解できるが、その状態を放置し、その人としての生活が維持できず、健康・生命の危険が生じ、また近隣における公共の福祉を脅かす状態にならない限り全く介入しないというのでは問題であり、セルフ・ネグレクト予備軍とも称すべき対象となる高齢者への予防措置を放棄したことにもなる。
そこであるべき姿としては、自由な個人のライフスタイルは尊重しながら、その健康状態や生活環境の悪化を防ぐため公的機関が予備軍も含めた対象高齢者に関与できる機会を確保し、「見守り」「自己決定を尊重しエンパワーメントを利用した段階的支援」「強制的措置」といったプロセスを経た段階的な介入プログラムを用意するべきではないだろうか。
そのために社会が関与するための前提として、判断能力の減退が見られない高齢者の場合もセルフ・ネグレクトの定義に含めるべきと考える。
最後に、他の虐待類型と同様に行政や関係機関が有効的に具体的対応が可能となるよう、上記の公的機関による段階的な関与・介入を確保し、発見者の通報義務、通報を受けた場合の措置・立入調査などの規定を設けるべきである。

 

 

(3)「養介護施設従事者等」の範囲の見直しについて
「現行法第2条第5項」
この法律において「養介護施設従事者等による高齢者虐待」とは、次のいずれかに該当する行為をいう。
一 老人福祉法(昭和38年法律第133号)第5条の3に規定する老人福祉施設若しくは同法第29条第1項に規定する有料老人ホーム又は介護保険法(平成9年法律第123号)第8条第20項に規定する地域密着型介護老人福祉施設、同条第24項に規定する介護老人福祉施設、同条第25項に規定する介護老人保健施設、同条第26項に規定する介護療養型医療施設若しくは同法第115条の39第1項に規定する地域包括支援センター(以下「養介護施設」という。)の業務に従事する者が、当該養介護施設に入所し、その他当該養介護施設を利用する高齢者について行う次に掲げる行為
イ 高齢者の身体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴行を加えること。
ロ 高齢者を衰弱させるような著しい減食又は長時間の放置その他の高齢者を養護すべき職務上の義務を著しく怠ること。
ハ 高齢者に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応その他の高齢者に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと。
ニ 高齢者にわいせつな行為をすること又は高齢者をしてわいせつな行為をさせること。
ホ 高齢者の財産を不当に処分することその他当該高齢者から不当に財産上の利益を得ること。
二 老人福祉法第5条の2第1項に規定する老人居宅生活支援事業又は介護保険法第8条第1項に規定する居宅サービス事業、同条第14項に規定する地域密着型サービス事業、同条第21項に規定する居宅介護支援事業、同法第8条の2第1項に規定する介護予防サービス事業、同条第14項に規定する地域密着型介護予防サービス事業若しくは同条第18項に規定する介護予防支援事業(以下「養介護事業」という。)において業務に従事する者が、当該養介護事業に係るサービスの提供を受ける高齢者について行う前号イからホまでに掲げる行為
【提言】
医療提供施設、医療保険制度が適用される事業又は老人福祉法もしくは介護保険法の適用のない無届けの介護施設もしくは介護事業等において業務に従事する者による高齢者虐待についても、本法が適用されることが明確になるよう、所要の改正を行うべきである。
【解説】
「要介護施設従事者等による高齢者虐待」を定義している本法第2条第5項は、「要介護施設」又は「要介護事業」を限定的に列挙しているため、医療施設又は医療機関において業務に従事する者による高齢者虐待や、老人福祉法又は介護保険法の適用のない無届けの介護施設又は介護事業等において業務に従事する者による高齢者虐待については、直接的には本法の適用の対象となっていない。
確かに、「要介護施設従事者等による高齢者虐待」の定義は、通報義務をはじめとする様々な義務の範囲を画する機能を有しているため、これを限定的に明確に定めておくことにも一定の合理性がないわけではない。しかし、本法の規定に基づく義務は、虐待を受けたと思われる高齢者を発見した者が躊躇することなく市町村に通報をすることができ、通報を受けた市町村等が迅速かつ適切に権限を行使して虐待を受けたと思われる高齢者の権利を擁護することができるようにするために課されたものであることから、必ずしも「要介護施設従事者等による高齢者虐待」を限定的に定義しなければならない必然性はないと考えられる。
ちなみに、医療(医療施設又は医療機関において行われる診療又は調剤等)は、高度の専門的知識及び技術を必要とするものであるため、これを老人福祉法又は介護保険法の規定に基づく行政の監督と同列の行政の監督の下に置くことは適切ではないとの考え方もあるかもしれない。しかし、例えば、介護保険制度の下での訪問看護(介護保険法8条1項4項)と、医療保険制度による訪問看護との間で、看護の専門性にそれほど大きな差があるわけではないことを考えると、介護保険制度による訪問看護に従事する者は「要介護施設従事者等」に該当するが、医療保険制度による訪問介護に従事する者は「要介護施設従事者等」には該当しない、ということになる現行法の規定が適切であるとは思われない。
そして、医療施設又は医療機関において医療の必要性から行われる身体拘束は、不適切に行われれば直ちに重大な人権侵害となる典型的な高齢者虐待と言うべきであるし、また、無届けの介護施設又は介護事業については、行政による監督が適時に適切に行われない可能性が高いことから、高齢者虐待の防止のためには、医療施設もしくは医療機関における高齢者虐待又は無届けの施設もしくは事業所等における高齢者虐待についても、本法を直接適用して、通報及び行政による監督の機会を積極的に確保することが望ましい。
もちろん、現行法の下でも、実際には、医療施設又は医療機関における高齢者虐待については、医療法の規定に基づき国(厚生労働大臣)、都道府県知事、保健所を設置する市の市長又は特別区の区長による監督権限の行使が可能であるし(医療法第23条の2~第30条、63条~68条の3)、無届けの施設又は事業所等における高齢者虐待については、養護者による高齢者虐待に関する規定を適用して対応をすることが可能ではある。しかし、これらの場合についても、端的に「要介護施設従事者等による高齢者虐待」に該当し、又は準ずるものとして、当該施設等又は当該事業において業務に従事している者にも本法第21条第1項所定の通報義務を課し、通報義務の範囲を拡大したほうが、高齢者虐待の防止により資することは明らかである。また、当該施設等又は当該事業において業務に従事する者による高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した者による通報についても、本法第21条第6項が適用され、守秘義務に関する法律の規定又は契約の条項により通報が妨げられるものではないこと、及び、同第7項が適用され、通報者が通報をしたこと理由をとして解雇その他不利益な取扱いを受けないことを明確にすべきであるし、さらに、医療施設又は医療機関における高齢者虐待や無届けの施設又は事業所等における高齢者虐待についても、老人福祉法又は介護保険法の適用を受ける施設又は事業所等における高齢者虐待と同様に、本法第25条所定の公表制度の対象とすべきであると考えられる。
以上により、介護療養型医療施設以外の病院又は診療所、調剤を実施する薬局その他医療法第1条の2第2項所定の医療提供施設の業務に従事する者を「要介護施設従事者等」(法2条5項)として例示すること等により、医師、歯科医師、薬剤師、看護師その他の医療の担い手(医療法1条の4)等の医療保険制度の適用を受ける医療提供施設の業務に従事する者又は医療保険制度の適用を受ける事業において業務に従事する者による高齢者虐待が、「要介護施設従事者等による高齢者虐待」(法2条5項)に該当することを明確にするとともに、老人福祉もしくは介護保険法の適用を受けない無届けの介護施設の業務に従事する者又は無届けの介護事業において業務に従事する者についても、「要介護施設従事者等」に準ずるものとして本法を適用することができるよう、所要の改正を行うべきである。

 

 

2.国・都道府県・市町村の連携の明確化
平成20年版高齢社会白書によると、高齢者人口は今後、平成24(2012)年には3,000万人を超え、平成30(2018)年には3,500万人に達すると見込まれている。このような状況の中では、将来的に、さらに養護者の負担が増え、高齢者虐待を招く可能性は高まることが容易に想像できる。
そこで、高齢者虐待防止法の改正については、上記状況を踏まえ抜本的に見直す必要がある。つまり下記具体的改正案に記載のとおり、連携強化、人材確保、研修、広報、調査研修、成年後見制度利用、居室確保等につき国、都道府県、市町村の役割および責任を明確にし、将来のさらなる超高齢社会に向けた高齢者虐待防止分野の充実を図らなければならない。
また、本分野の充実を図ることと、地域間格差を是正するために、本分野の最前線である地域包括支援センターから本分野を独立させ、都道府県にその中核機関である「高齢者虐待対応センター」を設け、それを統括する国のシステムの構築が望まれる。

 

(1)第3条(国及び地方公共団体の責務等)について
「現行法第3条第1項」
国及び地方公共団体は、高齢者虐待の防止、高齢者虐待を受けた高齢者の迅速かつ適切な保護及び適切な養護者に対する支援を行うため、関係省庁相互間その他関係機関及び民間団体の間の連携の強化、民間団体の支援その他必要な体制の整備に努めなければならない。
【提言】
具体的にどこまで体制の整備に関与するかを明確にすべきである。
「現行法第3条第2項」
国及び地方公共団体は、高齢者虐待の防止及び高齢者虐待を受けた高齢者の保護並びに養護者に対する支援が専門的知識に基づき適切に行われるよう、これらの職務に携わる専門的な人材の確保及び資質の向上を図るため、関係機関の職員の研修等必要な措置を講ずるよう努めなければならない。
【提言】
第1項同様その措置の講じ方について明確にすべきである
「現行法第3条第3項」
国及び地方公共団体は、高齢者虐待の防止及び高齢者虐待を受けた高齢者の保護に資するため、高齢者虐待に係る通報義務、人権侵犯事件に係る救済制度等について必要な広報その他の啓発活動を行うものとする。
【提言】
「啓発活動を行うものとする」ではなく、「行わなければならない」とすべきである。
【解説】
本条第1項では「高齢者虐待の防止、高齢者虐待を受けた高齢者の迅速かつ適切な保護と支援を行うため関係省庁相互間その他関係機関及び民間団体の間の連携の強化、民間団体の支援その他必要な体制の整備に努めなければならない」と定められている。
しかし、この責務規定は、具体性に乏しい。多様な省庁が存在し、縦割り行政が指摘される中(高齢者虐待の現場では、成年後見制度は法務省、老人福祉や介護保険は厚生労働省、年金は厚生労働省・社会保険庁、銀行預金は財務省・金融庁、警察官の立ち入り援助は警察庁)で、関係省庁相互間の緊密かつ迅速な連携強化は当然の要請である。具体的にどこまで体制の整備に関与するのかを明確にしていく必要がある。例えば、成年後見の市町村長申立の現場では、上記各省庁の連携の不備により、申立てに必要な年金給付額や預金残高、取引履歴等の収集に困難を生じており、迅速な虐待防止対応に支障をきたしている。
本条第2項では、「高齢者虐待の防止、虐待を受けた高齢者の保護、養護者に対する支援が適切に行なわれるよう専門的な人材の確保及び職員のための職員研修など必要な措置を講ずるよう努める」ことを宣明している。この責務規定も、第1項同様、その措置の講じ方について明確にしていく必要がある。
本条第3項では、地域住民からの迅速な通報や連携、協力は本法が機能するため必要不可欠であるとして、「高齢者虐待についての通報義務(法7条・21条)や人権侵犯事件に係る救済制度等についての広報や窓口等を周知させるための啓発・啓蒙活動を行うものとする」と定められた。
広報活動は高齢者虐待防止法を機能させるための要である。国民が本法の存在を知らなければ、本法に国民の責務規定が存在することを知るはずもない。また、第2項同様その責任主体についても明確にすべきである。本条第3項は条文末尾が「~行なうものとする」という表現になっているが、第1項、第2項同様、責務規定として定める必要があろう。
また、二重行政を阻止するためにも都道府県、市町村の各役割分担を明確にすることが求められる。例えば、関係機関の職員の研修等は都道府県の責任において、統一的な研修プログラムの確保が必要と思われる。また、高齢者虐待に係る通報義務の存在等の広報については国が、窓口の広報については市町村が担う等、明らかにすべきである。

 

(2)第6条(相談、指導及び助言)及び第14条(養護者の支援)について
「現行法第6条」
市町村は、養護者による高齢者虐待の防止及び養護者による高齢者虐待を受けた高齢者の保護のため、高齢者及び養護者に対して、相談、指導及び助言を行うものとする。
「現行法第14条」
市町村は、第6条に規定するもののほか、養護者の負担の軽減のため、養護者に対する相談、指導及び助言その他必要な措置を講ずるものとする。
2 市町村は、前項の措置として、養護者の心身の状態に照らしその養護の負担の軽減を図るため緊急の必要があると認める場合に高齢者が短期間養護を受けるために必要となる居室を確保するための措置を講ずるものとする。
【提言】
相談、指導、助言方法について、より具体性をもたせるべきである。また、生命又は身体に重大な危険等を及ぼす虐待を行った養護者等には、指導を受ける義務を明記すべきである。
【解説】
市町村、地域包括支援センターの介入(被虐待者の施設入所等)により現時点での虐待は防ぐことができたが、養護者の反省や関心の色が薄く、自宅に帰すことが困難な事例が少なからず存在する。逆に「厄介払いができた」というような者も存在するのが事実である。そのような者には地域包括支援センターの職員が指導を行おうとしても、会おうとしない場合が多い。そこで、被虐待者が施設で一生を終えることを望まない場合には、児童虐待防止法第11条のような指導を受ける義務や勧告等の規定を設けて、養護者に適切な指導を実施する必要がある。

 

(3)第16条(連携協力体制)について
「現行法第16条」
市町村は、養護者による高齢者虐待の防止、養護者による高齢者虐待を受けた高齢者の保護及び養護者に対する支援を適切に実施するため、老人福祉法第20条の7の2第1項に規定する老人介護支援センター、介護保険法第115条の39第3項の規定により設置された地域包括支援センターその他関係機関、民間団体等との連携協力体制を整備しなければならない。この場合において、養護者による高齢者虐待にいつでも迅速に対応することができるよう、特に配慮しなければならない。
【提言】
法の施行・運用にあたっては、都道府県が主体となり実質的にセンターとしての役割を担う中核機関を設置するべきである。
【解説】
上記ネットワークの構築が重要で相互間の連携強化が当然の要請であるのは言うまでもないが本条は非常に抽象的な規定である。
各市町村や地域包括支援センター任せにするのではなく、行政がいかに実効的・実践的な体制を整えることができるかは今後の課題である。都道府県が設置する「児童相談所」や「配偶者相談支援センター」のように包括的で専門的な対応を一括して行なうことのできる「高齢者虐待防止センター」を設置することも検討する必要がある。

 

 

(4)第19条(都道府県の援助等)について
「現行法第19条」
1 都道府県は、この章の規定により市町村が行う措置の実施に関し、市町村相互間の連絡調整、市町村に対する情報の提供その他必要な援助を行うものとする。
2 都道府県は、この章の規定により市町村が行う措置の適切な実施を確保するため必要があると認めるときは、市町村に対し、必要な助言を行うことができる。
【提言】
都道府県の役割については、援助、助言にとどまらず、市町村では対応できない具体的な責任を担うべきである。例えば、高齢者シェルターの設置を都道府県の義務として新たに設けるべきである。
【解説】
第10条により、市町村は「必要な居室確保のための措置を講ずる」ものと定められた。「居室確保の措置」としては、現時点においては、老人短期入所施設や養護老人ホーム、特別養護老人ホームなどの高齢者施設が使用されている。これら施設の増設や定員枠の拡大がなされなければならないのはもちろんであるが、増床することだけでは問題は解決しない。狭い地域内で居室を確保しても、シェルター機能としての秘密性を確保できるのかという懸念がある。養護者から虐待を受けた高齢者を一時的に保護するための居室が、日常生活圏域内であれば、本当の意味での保護・分離にはならないからである。
そこで、都道府県が主体となる高齢者シェルターの設置が望まれる。このように都道府県は、都道府県独自の役割を負い、責務を担っていく必要がある。
また、各市町村共通の課題である専門的人材の養成や研修なども都道府県の役割とすべきである。同時に、二重行政の不連携をも解消しなければならない。共同事業化や役割分担を明確にし、その弊害を解消した上で、都道府県の役割分担を強化していくべきである。

 

 

(5)第25条(公表)について
「現行法第25条」
都道府県知事は、毎年度、養介護施設従事者等による高齢者虐待の状況、養介護施設従事者等による高齢者虐待があった場合にとった措置その他厚生労働省令で定める事項を公表するものとする。
【提言】
厚生労働省令を改正し、公表内容に施設名等を追加するかあるいは、本法において施設名の公表規定を設ける措置を講ずるべきである。
【解説】
本条は、都道府県知事が、毎年度、虐待の状況・講じた措置、並びに施行規則3条で定められた、①虐待があった養介護施設の種別②虐待を行った養介護施設従事者の職種の公表を行うことを定めている。しかし、上記の他、場合によっては、施設名を公表することも必要と思われる。
市町村が都道府県に対して報告する高齢者の状況、虐待の種別、内容及び発生要因、市町村がとった対応、養介護施設等で改善措置がとられている場合の内容などはいずれも公表されない。これは養介護施設従事者等による虐待発生の問題点はどこにあり、どのような改善が必要かを検討する上で極めて不十分である。省令事項であり、法改正を待たずに改めることが求められる。

 

 

3.通報及び立入調査について
(1)通報義務者の範囲について
「現行法第7条」
1 養護者による高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した者は、当該高齢者の生命又は身体に重大な危険が生じている場合は、速やかに、これを市町村に通報しなければならない。
2 前項に定める場合のほか、養護者による高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した者は、速やかに、これを市町村に通報するよう努めなければならない。
3 刑法(明治40年法律第45号)の秘密漏示罪の規定その他の守秘義務に関する法律の規定は、前2項の規定による通報をすることを妨げるものと解釈してはならない。
【提言】
通報義務者の範囲を広げ、「高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した者」と定めるべきである。
【解説】
本法は、虐待発見者の判断で通報義務又は通報努力義務に峻別されるという構造をとっている。すなわち、第7条2項においては「養護者による高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した者」に対し通報努力義務を課しており、その中で「当該高齢者の生命又は身体に重大な危険が生じている場合」に限定し通報義務を課している(同条1項)。また、同様に第21条3項においては「養介護施設従事者等による高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した者」に対し通報努力義務を課しており、その中で「当該高齢者の生命又は身体に重大な危険が生じている場合」に限定し通報義務を課している(同条2項)。
平成19年度厚生労働省調査結果の「養護者による高齢者虐待についての対応状況等」(以下、「養護者対応状況等」という)によると、相談・通報件数は、19,971件で平成18年度が18,390件であったことから、1,581件増(8.6%増)との発表をされているが、同調査の「養介護施設従事者等による高齢者虐待についての対応状況等」(以下、「養介護従事者対応状況等」という)の相談・通報件数が平成19年度379件で、平成18年度が273件の106件増(38.8%増)と比較すると「養護者対応状況等」の伸び率が低調であることが読み取れる。これは、様々な要因が考えられるが、主な要因としては、周囲の者が他の家庭事情への介入を憚っていることや近年社会問題となっている地域社会の希薄さなどが考えられよう。一方で、「養護者対応状況等」によると、虐待を受けている被虐待高齢者本人から2,514件(全体の12.6%)の届出があったことからも、高齢者が自らSOSを発しなければならない状況が数多く存在していることも、うかがわれる。
また、「生命又は身体に重大な危険が生じている」とはどのような判断基準なのかについては、人によって判断が異なるものであろう。特に、寝たきりや重度の認知症の高齢者にとって自ら届出することが困難な場合において、周囲の人によって危険度の判断が異なり通報が左右されるというのでは、高齢者の人権擁護の観点からして問題がある。
さらに、法の趣旨を同じくすると考えられる児童虐待防止法では第6条に「児童虐待を受けたと思われる児童を発見した者は、速やかに、これを福祉事務所・・・(略)・・に通告しなければならない。」と定めており、児童の生命の危険と高齢者の生命の危険とを比較するに、同等の価値基準で検討することが必要であり、同様の定めが必要と考えられる。
以上のことは、養護者による高齢者虐待に係る通報の場合であろうが養介護施設従事者等による高齢者虐待に係る通報の場合であろうが、養介護施設従事者等以外の者が通報する場合においてもなんら差異を設ける理由はないと言える。
よって、虐待を防止することで高齢者の権利利益を擁護しようとする本法の趣旨から考えると、数多くの事案を通報してもらうことで、多くの埋もれた事案をなくすことが必要であり、児童虐待と高齢者虐待で通報に対する周囲の認知度が異なる必要性のないことも鑑みれば、通報義務を「生命又は身体に重大な危険が生じている場合」に限定する必要はなく、「高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した者」に対して通報義務を課すように改正すべきである。

 

(2)養介護施設従事者等による高齢者虐待に係る通報について
「現行法第21条」
養介護施設従事者等は、当該養介護施設従事者等がその業務に従事している養介護施設又は養介護事業(当該養介護施設の設置者若しくは当該養介護事業を行う者が設置する養介護施設又はこれらの者が行う養介護事業を含む。)において業務に従事する養介護施設従事者等による高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した場合は、速やかに、これを市町村に通報しなければならない。
2 前項に定める場合のほか、養介護施設従事者等による高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した者は、当該高齢者の生命又は身体に重大な危険が生じている場合は、速やかに、これを市町村に通報しなければならない。
3 前2項に定める場合のほか、養介護施設従事者等による高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した者は、速やかに、これを市町村に通報するよう努めなければならない。
4 養介護施設従事者等による高齢者虐待を受けた高齢者は、その旨を市町村に届け出ることができる。
5 第18条の規定は、第1項から第3項までの規定による通報又は前項の規定による届出の受理に関する事務を担当する部局の周知について準用する。
6 刑法の秘密漏示罪の規定その他の守秘義務に関する法律の規定は、第1項から第3項までの規定による通報(虚偽であるもの及び過失によるものを除く。次項において同じ。)をすることを妨げるものと解釈してはならない。
7 養介護施設従事者等は、第1項から第3項までの規定による通報をしたことを理由として、解雇その他不利益な取扱いを受けない。
【提言】
養介護施設従事者等による高齢者虐待に係る通報に過失があった場合でも、刑法の秘密漏示罪の規定その他の守秘義務に関する法律の規定及び不利益な取り扱いから保護すべきである。
【解説】
「養介護施設従事者対応状況等」によると、相談・通報(以下、「通報等」という)者の割合は、当該施設職員が26.1%、次いで家族・親族が25.6%、当該施設元職員が12.4%、高齢者本人による届出が5.3%の結果となっている。
本来であれば、当該施設内で業務に従事する当該施設職員が最も虐待を発見しやすい立場にあることは明白なところ、当該施設職員からの通報等は全体の4分の1の割合にとどまっている。一方で、同割合と比較して、当該施設職員より高齢者本人と接する時間の少ない家族・親族からの通報等がほぼ同程度の割合になっている。また、たとえ当該施設職員(元職員)が通報等したとしても不利益扱いされる憂慮のない、もしくは少ないと思われる方法、例えば、匿名や当該養介護施設退職後の通報等も多くの割合を占めている。このことから、第21条1項で期待されていると考えられる養介護施設従事者等の通報義務が少なくとも有効に機能しているとは言いがたい。
これは、本法第7条の養護者による高齢者虐待に係る通報とは異なり、養介護施設従事者等による高齢者虐待に係る通報においては、本法第21条6項及び7項に定められているように、当該通報に過失があった場合に刑法の秘密漏示罪の規定その他の守秘義務に関する法律の規定及び不利益な取り扱いから保護されないことが要因の一つであると考えられる。そして、保護されない結果として、当該養介護施設等から過失通報者に対する告訴、損害賠償請求等が可能となることからも、養介護施設従事者等が通報すべきか否かの判断に慎重にならざるを得ない状況に置かれているのではないかと思われる。しかし、このことは、できる限り広範にセーフティネットを張り、通報で寄せられた情報を調査・検討し、虐待と判断された事例に対し保護を図ろうとする本法の趣旨に反すると考えられるし、延いては、過失による通報の場合を保護の対象から除外してしまうことにより、虐待の発見者が通報を躊躇し、結果的に、情報の入口が絞られ、限られた情報しか入手することができず、潜在的な虐待を黙認することになりかねない。
ちなみに、本法に言う過失による通報とは、「一般人であれば虐待があったと考えることには合理性がない場合の通報」と解されている。つまり、虐待があったと考えることに合理性が認められる場合でなければ、当該通報は保護の対象とはならない。
ところで、本法と同様、通報者の不利益扱い禁止等を規定するものに公益通報者保護法があるが、同法では、労働者が、事業所内部で法令違反行為等の通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしている旨を行政機関に通報するときにおいて、不正の目的で行われた通報ではなく(同法第2条第1項)、かつ通報内容に真実相当性があること(同法第3条第2号)の2つの要件を満たした場合に通報者は保護の対象となる。虐待の通報者も労働基準法等に基づき保護の対象となると考えられるが、同法の保護規定の要件に当てはめてみると、虐待が生じていると信ずるに足りる相当の理由が存在することが必要となり、この厳格な要件のもとではほとんど虐待の通報は期待できないと思われる。
したがって、本法においても通報保護要件を厳格にする規定とするならば、公益通報者保護法と同様、通報はほとんど期待できなくなると考えられる。
以上のことから、情報の入口である通報の段階においては、発見者が躊躇することなく市町村に通報できるような制度作りをすべきであり、そのためには、養介護施設従事者等による高齢者虐待に係る通報の場合でも養護者による高齢者虐待に係る通報の場合と同様、過失除外規定を削除もしくは緩和し、刑法の秘密漏示罪の規定その他の守秘義務に関する法律の規定及び不利益な取り扱いから保護すべきである。

 

(3)立入調査の要件について
「現行法第11条第1項」
市町村長は、養護者による高齢者虐待により高齢者の生命又は身体に重大な危険が生じているおそれがあると認めるときは、介護保険法第115条の39第2項の規定により設置する地域包括支援センターの職員その他の高齢者の福祉に関する事務に従事する職員をして、当該高齢者の住所又は居所に立ち入り、必要な調査又は質問をさせることができる。
【提言】
立入調査の要件を「高齢者の生命又は身体に重大な危険が生じているおそれがあると認めるとき」と定めているが、児童虐待防止法と同様、高齢者保護の観点からその立入調査の要件を「高齢者虐待が行われているおそれがあると認めるとき」とすべきである。
【解説】
本法第7条は、高齢者虐待における通報を定めており、「当該高齢者の生命又は身体に重大な危険が生じている場合」は「養護者による高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した者」に対して通報を義務化し、「養護者による高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した者」に対しては、通報の努力義務を定めている。
平成19年度厚生労働省調査結果によれば、全国の1,816市町村(特別区を含む)で受け付けた養介護施設従事者等による高齢者虐待に関する相談・通報件数は379件あり、前年比で38.8%増加した。また、養護者による高齢者虐待に関する相談・通報件数は19,971件あり、前年比で8.6%増加した。同法が施行され、社会的に認知されることに伴い、通報件数は増加傾向にあり、虐待に苦しむ高齢者を一人でも多く保護するに繋がっている。
本条は、養護者による高齢者虐待により「高齢者の生命又は身体に重大な危険が生じているおそれがあると認めるとき」は、市町村長は地域包括支援センターの職員その他の高齢者の福祉に関する事務に従事する職員をして、当該高齢者の住所又は居所に立ち入り、必要な調査又は質問をさせることができる旨を規定している。また、法30条では正当な理由がなく、本条第1項の規定による立入調査を拒み、妨げ、若しくは忌避し、又は同項の規定による質問に対して答弁をせず、若しくは虚偽の答弁をし、若しくは高齢者に答弁をさせず、若しくは虚偽の答弁をさせた者は、30万円以下の罰金に処すると規定しており、間接的に立入調査の実効性を確保している。
しかしながら、本条は「高齢者の生命又は身体に重大な危険が生じているおそれがあると認めるとき」と要件を定めており、市町村長による立入調査について非常に厳しい要件としている。ただ、市民からの通報を受けたとしても、当該高齢者が受けている虐待が本条第1項の要件に当てはまるか判断ができない場合には市町村長として立入調査をすることができず、正に虐待を受けている高齢者を早期に適切に保護することができなくなる。
児童虐待防止法9条第1項によれば、立入調査の要件を「児童虐待が行われているおそれがあると認めるとき」と定めており、本法の要件より広く規定されている。
本法第5条において高齢者虐待の早期発見について規定していることからも、市町村長が早期に高齢者虐待を発見し、虐待を受けている高齢者を適切に保護するために、本法第11条第1項の立入調査の要件を、児童虐待防止法と同様、「高齢者虐待が行われているおそれがあると認めるとき」とすべきである。

 

 

(4)立入調査権(面接要求、臨検、捜索)について
「現行法第11条2項及び3項」
2 前項の規定による立入り及び調査又は質問を行う場合においては、当該職員は、その身分を示す証明書を携帯し、関係者の請求があるときは、これを提示しなければならない。
3 第一項の規定による立入り及び調査又は質問を行う権限は、犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない。
「現行法第30条」正当な理由がなく第11条第1項の規定による立入調査を拒み、妨げ、若しくは忌避し、又は同項の規定による質問に対して答弁をせず、若しくは虚偽の答弁をし、若しくは高齢者に答弁をさせず、若しくは虚偽の答弁をさせた者は、30万円以下の罰金に処する。
【提言】
児童虐待防止法第8条の2、9条の2に規定されている出頭要求(再出頭要求)制度に代え、面接要求(再面接要求)制度を創設し、臨検、捜索の規定をも定めるべきである。
また、面接要求(再面接要求)、臨検、捜索の規定が設けられた場合には、本法第30条の罰金の額を児童虐待防止法と同等程度の額へ引き上げるべきである。
【解説】
本法第9条3項では立入調査及び質問は犯罪捜査のためのものではなく、また、裁判所の令状を元に立入りするものでもないため、養護者が鍵をかけて立入りを拒否する場合には、正当な理由なく立入りを拒否する行為には刑事罰が科せられる旨を告げて間接的に強制することはできたとしても、実力行使して自ら鍵を開け立入ることはできないと解されている。
一方、平成20年4月1日施行の改正児童虐待防止法においては、直接強制力を持つ立入調査権(臨検・捜索)が可能となった。児童虐待防止法は18歳に満たない未成年者を対象とした法律であり、未成熟の子どもを保護することが主眼となっており、立入りの際に本人の意思を聴くことができない場合があると考えられるため、裁判所の介入を前提に、強制力をもたせた手続が用意されている。
一般に高齢者は自らの意思を表示することができる成人であるため、「自己決定権の尊重」という観点から児童虐待防止法で認められている臨検、捜索は認められていないが、正に虐待を受けていたとしても、虐待をしている養護者等からの報復が恐ろしく、また認知症を患い、適切に意思表示をすることができないような場合も想定されるため、例え本人が立入調査を拒否している場合であっても虐待を受けていないことにはならず、そのため正に虐待を受けている高齢者を適切に保護することができないことになりかねない。よって、改正児童虐待防止法に規定されている出頭要求、臨検、捜索の手続同様、強制力のない立入調査権のみならず、実力行使権を含んだ手続が必要となると考えられる。
一方、児童虐待防止法第8条の2及び9条の2では出頭要求及び再出頭要求を規定しているが、養護されている高齢者が寝たきりである場合があると予想されるため、「当該保護者に対し、当該児童を同伴して出頭することを求め」という要件は高齢者介護の現場から見れば実態と乖離した制度になりかねない。そこで、出頭要求ではなく「面接要求」とし、介護保険法第115条の39第2項の規定により設置する地域包括支援センターの職員その他の高齢者の福祉に関する事務に従事する職員をして高齢者が介護されている場所(自宅・施設)において養護者とともに面接を要求する制度(面接要求制度)を設けるべきである。
また本法第30条では正当な理由がなく立入調査を拒んだ場合には30万円以下の罰金に処せられるとしているが、臨検、捜索の規定を設ける場合に、その手続の実効性を担保するため罰金の額を児童虐待防止法と同等程度の額まで引き上げるべきである。

 

(5)面会制限等について
「現行法第13条」
養護者による高齢者虐待を受けた高齢者について老人福祉法第11条第1項第2号又は第3号の措置が採られた場合においては、市町村長又は当該措置に係る養介護施設の長は、養護者による高齢者虐待の防止及び当該高齢者の保護の観点から、当該養護者による高齢者虐待を行った養護者について当該高齢者との面会を制限することができる。
【提言】
面会制限の対象範囲を措置としての入所に限らず、介護保険法による入所の場合等まで含めること並びに面会制限の対象者を「高齢者虐待を行った養護者及びこれと同視すべき者」と改正すべきである。
また、高齢者本人の保護に支障をきたすと認める場合には、通信を制限しあるいは高齢者の住所又は居所を明らかにしないものとすることを検討すべきである。
【解説】
本法第13条は、高齢者虐待を行った養護者の面会制限の要件について「老人福祉法第11条第1項第2号又は第3号の措置が採られた場合において」と規定されており、老人福祉法の措置がとられた場合にのみ面会制限ができることとなっており、虐待を受けた高齢者が、契約による入所や入院をした場合、本条の「面会制限」の対象とされていない。
確かに、本条の趣旨が、市町村の行政判断により施設で保護する場合(措置入所の場合)に、市町村の保護責任が生じることによって面会制限の権限を明確化したものと説明されており、契約による入所の場合には、高齢者本人の意思を尊重すべきであることは当然である。
しかしながら、平成19年度厚生労働省調査結果によれば、高齢者に対する虐待の対応として「被虐待高齢者の保護と虐待者からの分離をおこなった事例」は35.5%となっており、多くのケースで虐待者と高齢者を分離していることが判明している。また、「分離を行った事例」の中では「契約による介護保険サービスの利用」が38.2%、「医療機関への一時入院」が21.0%、「やむを得ない事由等による措置」が11.8%、「緊急一時保護」が10.2%、「その他」が18.8%となっており、「措置入所」以外の高齢者に対しても、虐待者と分離をすることによって、生活の改善を図ろうとしている事例があることがうかがわれる。
即ち、契約による入所の場合であっても、例えば、虐待者が本人の預金等の引出を強要する等本人保護の観点から、施設側に面会制限すべきと判断する事情があれば、施設全体の平穏、安全、秩序の確保に配慮して、施設長の管理運営権限に基づき、面会制限の権限があると解すべきである。
又、本法第13条の面会制限の対象者については、「高齢者虐待を行った養護者」に限定しているが、養護者の指示を受けた者や養護者同様の関係者までは対象としていない。養護者からの支持を受けて高齢者への経済的虐待等も考えられ、面会制限の対象者については、高齢者本人の意思に配慮する特段な事情がなければ、高齢者本人の保護の観点から判断し、面会制限の対象者を限定的に定めておくことは相当ではないものと思われる。
よって、養護者以外で養護者と同視できる者に対しても面会制限ができるようにすべきである。
更に、児童虐待防止法第12条第1項に児童の保護のため必要がある場合に通信制限を規定し、同条第3項においては、強制的な施設入所の場合(第28条)や一時保護の場合(第33条第1項若しくは第2項)に、「児童の保護に支障をきたすと認めるときは、児童相談所長は、当該保護者に対し、当該児童の住所又は居所を明らかにしないものとする」として、保護者との連絡を遮断したり、居所を告知しないことによって、児童本人の保護を図る規定がされている。これは、高齢者虐待においても、養護者が施設の入所につき同意していない時には、養護者が高齢者を連れ戻したり、再び養護者が虐待を行うことが予想され、高齢者本人が虐待により健康を害していたり、高齢者本人がひどく怯えているような場合は当然として、事案によっては養護者に高齢者本人と連絡を取らさないようにしたり、高齢者本人の居場所を知らせない等の措置を講ずる必要があると思われる。
本条は、高齢者の保護と養護者の支援を掲げる本法の目的と立入調査同様、家庭の中に法律がどれだけ介入すべきかという問題があるが、高齢者本人保護を優先し、そのうえで養護者を支援する体制を構築することによって、高齢者の虐待防止と養護者支援という本法の目的を実現することが必要ではないかと考える。
よって、本法においても、児童虐待防止法の規定同様の、通信制限及び高齢者本人の転居先等の秘匿を許容する規定を新設することを検討すべきである。

 

4.成年後見制度の活用について
司法書士は、平成12年4月の新成年後見制度施行以来、法律実務家の使命感をもって、この制度の発展のために、専門職後見人として又は制度利用の相談等の受け皿として、その一翼を担い活動してきた。最高裁判所事務総局家庭局が発表した平成19年4月から平成20年3月までの成年後見関係事件の概況によれば、この1年間に認容で終局した後見等開始事件(対象事件総数23,501件)のうちの10.5%に当たる2,474件で、司法書士が成年後見人等に選任されており、現時点では、司法書士は、いわゆる「第三者後見人」に最も多く就任している資格者・専門職である。そこで、成年後見制度に関してこれまで一定の実績を残してきている司法書士が、高齢者虐待防止法における成年後見制度の利用促進等について、以下のような提言をする。

 

 

(1)利用促進の為の市町村長の役割と経済的措置
「現行法第28条」
国及び地方公共団体は、高齢者虐待の防止及び高齢者虐待を受けた高齢者の保護並びに財産上の不当取引による高齢者の被害の防止及び救済を図るため、成年後見制度の周知のための措置、成年後見制度の利用に係る経済的負担の軽減のための措置等を講ずることにより、成年後見制度が広く利用されるようにしなければならない。
【提言1】
虐待を受けた高齢者及び財産上の不当取引の被害を受け又は受けるおそれがある高齢者による成年後見制度の利用に市町村がより積極的に関与することを義務付ける趣旨の規定を新設すべきである。
【解説】
老人福祉法第32条は、65歳以上の者につき、その福祉を図るため特に必要があると認めるときは、市町村長が、後見開始等の審判の請求をすることができる旨を規定している。この規定の解釈及び運用の基準については、平成17年7月29日付厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部障害福祉課長・同局同部精神保健福祉課長・老健局計画課長連名通知で示されているが、市町村の担当者の多くは、この通知による改正前の平成12年3月30日付通知が示していた基準に準じて、老人福祉法第32条の市町村長の申立権を、四親等内の親族等の民法所定の申立人の申立権を補完するものであると解し、民法所定の申立人が存在しない場合又は民法所定の申立人が申立てを拒絶している場合等非常に限られた場合に限定して、市町村長に申立権が認められるとの運用をしている。
しかし、そもそも、老人福祉法第32条は、判断能力の不十分な高齢者が、成年後見制度を利用することができないまま、介護・福祉サービスの提供方法が「措置から契約へ」と移行した社会の中で必要な支援や保護が受けられずに放置されてしまう、という事態が生じないよう、地域の高齢者に関する情報を数多く有している市町村の長に後見開始等の審判の申立権を付与して、市町村が判断能力の不十分な高齢者の権利擁護に積極的に関与すべきことを定めた規定であると解される。したがって、同条の「その福祉を図るため特に必要があると認めるとき」という文言を限定的に解釈する必要はなく、判断能力が不十分であるにもかかわらず、成年後見制度を利用することができない高齢者について、市町村長が老人福祉法第32条の権限を行使して、その人が適切な介護・福祉サービスの提供を受けることができるようにすることは、市町村の責務であると言える。
一般に、虐待を受けた高齢者については、成年後見制度を利用することによって適切な介護・福祉サービスの提供を受けることが可能となり、これにより、虐待を受けた高齢者の安全を確保し、確実にその保護を図ることができる。また、虐待を受けた高齢者が適切な介護サービスの提供を受けることによって養護者の介護負担が軽減されれば、養護者の生活環境も改善され、結果的に養護者の支援にも資することになる。つまり、虐待を受けた高齢者を適切に成年後見制度の利用につなげることは、まさに、高齢者の養護者に対する支援を充実させ、高齢者虐待を防止するという本法の目的に合致することであると言える。そして、虐待を受けた高齢者については、直ちに保護をする必要があり、また、財産上の不当取引の被害を受け又は受けるおそれがある高齢者については、速やかに被害の発生もしくは拡大を防止し又は被害の回復を図る必要がある。つまり、高齢者虐待を防止する為に成年後見制度を利用する場合には、通常は、緊急性・迅速性が要求される。
以上のことから、虐待を受けた高齢者が適切に成年後見制度を利用することができるよう迅速に後見開始等の審判の申立手続を進めることは、市町村の責務であり、そのことを法文上明確にするためにも、本法第28条の規定とは別に、虐待を受けた高齢者及び財産上の不当取引の被害を受け又は受けるおそれがある高齢者による成年後見制度の利用に市町村がより積極的に関与することを義務付ける趣旨の規定を設けることが検討されるべきである。
具体的には、虐待を受けた高齢者及び財産上の不当取引の被害を受け又は受けるおそれがある高齢者については、民法上の申立人とされている親族等の存在又は意向にかかわりなく、市町村長が積極的に後見開始等の審判の申立てをすべきことを、法律上明確に規定すべきである。また、市町村長が老人福祉法第32条の規定による後見開始等の審判の申立てをしない場合でも、民法所定の申立人による後見開始等の審判の申立手続を市町村が積極的に支援すべきことも、明確に規定すべきである。
【提言2】
虐待を受けた高齢者が成年後見制度の利用を阻害されることのないよう、虐待を受けた高齢者が成年後見制度を利用する場合における後見開始等の審判の申立費用及び成年後見人等の報酬について、特別の助成制度を創設すべきである。
【解説】
成年後見制度を利用するためには、まず、後見開始等の審判の申立時に申立人が申立費用を負担しなければならず、さらに、その後継続的に成年後見制度の利用者自身が成年後見人等の報酬を負担しなければならない。申立費用の負担に不安があるため後見開始等の審判の申立てを躊躇してしまっては、成年後見制度を迅速に利用することができないし、利用者自身に成年後見人等の報酬を負担するだけの資力がなければ、必要な成年後見人等の候補者を得ることが困難になり、やはり迅速かつ適切な成年後見制度の利用が阻害されるおそれがある。
成年後見制度の利用者に係る後見開始等の審判の申立費用及び成年後見人等の報酬の助成の制度としては、すでに成年後見制度利用支援事業等がある。成年後見制度利用支援事業は、平成13年の創設当初は、介護保険サービスを利用し又は利用しようとする低所得で身寄りのない重度の認知症高齢者であって市町村長申立てにより成年後見制度(事実上後見類型に限定される)を利用するもののみを対象者とするものとされていたが、その後、対象者を市町村長申立てに係る低所得の知的障害者及び精神障害者にも拡大し、さらに高齢者については平成18年4月から、知的障害者及び精神障害者については平成20年4月から、対象者を、「同事業の対象者として市町村が認める者」「助成を受けなければ成年後見制度の利用が困難であると認められる者」と定めることにより、市町村長申立てにより成年後見制度を利用する者(身寄りのない者)に限定することなく、広く成年後見制度の利用が困難な者を事業の対象者とすることが示され、現在に至っている(「地域支援事業の実施について」(平成18年6月9日厚労省老発0609001号)、「成年後見制度利用支援事業に関する照会について」(平成20年10月24日厚労省老健局計画課長事務連絡)及び「成年後見制度利用支援事業の対象者の拡大等について」(平成20年3月28日厚労省社会・援護局障害保健福祉部障害福祉課事務連絡)参照)。
しかし、現状では、成年後見制度利用支援事業は十分に活用されているとは言いがたい。例えば、高齢者を対象者とする同事業は、介護保険法第115条の38を根拠とする地域支援事業として市町村により行われるものであるが、その位置づけは、中核事業とは言えない「その他の地域支援事業」であり、「地域の実情に応じた必要な支援を行うことを目的とする」「任意事業」とされていることから、実施主体である市町村によっては、「地域に対象者が存在しない」などの理由で同事業について全く予算措置を講じておらず、いまだに同事業を全く実施していない市町村も存在する。
また、同事業の対象者は、現在では、市町村長申立てにより成年後見制度を利用する者に限定されないことが、厚生労働省により明確に示されているが、このことは、平成20年3月までは、必ずしも明確に示されておらず、むしろ、厚生労働省は、地域支援事業の実施の周知徹底を図るために発出した「地域支援事業の実施について」(平成18年6月9日厚労省老発0609001号)中の別紙「地域支援事業実施要綱」において、同事業の対象者として「市町村長申立てに係る低所得の高齢者」を例示していたことから、実際に同事業を実施する市町村における同事業の実施要綱等では、同事業の対象者を「市町村長申立てに係る低所得の高齢者」に限定していることが多く、そのために、従来は、同事業の利用の促進が大きく阻害されていたのも事実である。
以上のとおり、成年後見制度利用支援事業は、現状では必ずしも十分に利用されているとは言いがたい状況であるので、これを十分に活用することができるよう、様々な施策を講じる必要があるが、さらに、虐待を受けた高齢者については、他の後見等申立事例と比較して、保護の必要性及び緊急性がより高いことから、虐待を受けた高齢者が成年後見制度を利用する場合における後見開始等の審判の申立費用及び成年後見人等の報酬の助成制度については、成年後見制度利用支援事業とは別の助成制度を創設し、成年後見制度利用支援事業とは別の要件により、別の予算を確保して、虐待を受けた高齢者の迅速かつ適切な成年後見制度の利用の促進を図るべきである。

 

 

(2)広報・普及活動の実施
【提言】
国、都道府県及び市町村は、本法の目的を達成するためには成年後見制度のより一層の活用が不可欠であるとの認識を共有し、互いに連携をとりながら、これまで以上に積極的に成年後見制度の利用促進のための広報・普及活動を推進するよう努めるべきである。
【解説】
高齢者虐待の防止及び高齢者の養護者に対する支援等に関する施策を促進し、もって高齢者の権利利益の擁護に資する、という本法の目的は、判断能力が不十分な高齢者等の生命、身体、自由、財産等の権利を擁護する、という成年後見制度の目的と大きく重なり合っている。そのため、成年後見制度を知り、成年後見制度を適切に利用することは、そのまま、高齢者虐待を防止し、高齢者虐待を受けた高齢者を保護するとともに、財産上の不当取引による高齢者の被害を防止し、被害の救済をすることにつながる。したがって、高齢者虐待の防止に関する広報の一環として成年後見制度の広報・普及活動を行うことには十分に合理性があると考えられる。
このことから、例えば、国、都道府県又は市町村が成年後見制度の広報・普及活動を行うに当たっては、成年後見制度の利用によって高齢者虐待を防止し、虐待を受けた高齢者を保護した事例を積極的にとりあげるなどの工夫をして、より効果的に成年後見制度の周知を図ることを検討すべきである。

 

 

5.障害者虐待防止法について
【提言】
障害者の生活全般に関係する虐待事例に横断的に対応できる障害者虐待防止法を、被虐待者の保護とネットワークの充実に配慮して早期に制定すべきである。
【解説】
先日、障害のある人に対する虐待防止法の法案化がすすめられているとの新聞報道がなされた。数多くの虐待事案がマスコミ等で多くとりあげられていることから障害のある人に対する虐待の事例は少なくないと考えられ、早期に法案成立をすべきである。
障害者虐待防止法案の中で注視すべきは、勤務先での虐待についても労働局が調査等をし、障害者虐待に対して早期発見をはかるべく規定しているとのことであるが、高齢者虐待防止法同様に通報義務や立入調査に関して、生命又は身体に重大な危険が生じている場合に限っているようでは、障害者虐待の早期発見実現になりえない。高齢者虐待防止同様に考えるべきである。
また、労働局が関与することからも、高齢者虐待とは違ったネットワーク化を図る必要があり、障害者権利擁護センターの充実が必要であろう。高齢者虐待同様、国・県・市町村等行政の役割は重要であり、障害者権利擁護センターと法律・福祉の専門家等の連携を各地域に早急に構築すべきである。

 

6.終わりに
高齢者虐待防止については、福祉・医療関係者若しくは法律関係者だけでは解決困難な問題が多く、そのため、福祉・医療及び法律の専門家等の高齢者に関わる者や団体が連携して係わらなければ、全国各地域での対応が不可能であることは間違いない。
また、本法第1条の目的規定にあるとおり、高齢者虐待防止に関する国等の責務は重要であり、福祉・医療の専門家と法律の専門家が行政機関と連携を強化することが急務であることは言うまでもない。
司法書士会連合会並びに社団法人成年後見センター・リーガルサポートは、現在の高齢者虐待問題に対応することはもちろんのこととして、本法の改正を、現場で支援するための法律専門家の団体として、組織的かつ積極的に高齢者虐待問題への体制を全国的に整備するとともに、さらなる司法書士の活用が求められるよう、各地域での連携強化をしていくつもりである。

 

 

※標記提出先の他、以下の団体に提出
・日本高齢者虐待防止学会
・高齢者虐待防止国際ネットワーク(INPEA)(日本国委員会事務局)
・日本地域福祉学会
・成年後見法学会

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